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「ん…………っ!」
補習が終わって思い切り伸びをする。
これでまだ初日なんだよなー。
こんな暑い中でやるのは流石に集中力とかの問題で明日からは教室を変える事にしたらしい。
わざわざ空調が壊れてるところでやる事ないもんね。
他の補習仲間達は逃げるように教室から退散していく。
生徒会は教材の片付けをしている。
舞と話したかったけど、まぁ、生徒会の仕事があるなら仕方ない。
また機会あるよね、きっと。
というか、生徒会って夏休みなのにこんな事もして大変なんだな……。
さて、ボクも部屋に帰ろっと。
「おーい、蓮乃ー」
前の机でぐったりしてる蓮乃の腰の部分を両側からつつく。
ガタン、と音を立てて体を起こす。
「それはズルいです」
「ほら、暑いから戻るよ」
恨みがましい目を軽く流して教室を後にする。
後ろから、うーうーと唸りながら蓮乃が付いてくる。
蓮乃は補習仲間にしてルームメイトの一人で、色々ともう慣れた。
だいたいは中等部からエスカレーターで上がる人が多い中で、同じ外部入学だから既に出来上がってるグループに入るより、自然と一緒にいることが多い。
蓮乃はただめんどくさいだけかもしれないけど。
学校を出て寮に向かう。
寮は3棟あって、それぞれに3年生から1年生までがだいたい均等になるように割り振られてる。
その中心に食堂やカフェ、大浴場などがある大きな建物があり、憩いの場になっていて、各学年3クラス分の人数分収められるようになってるから、それなりの広さもある。
よくグランドハウス、もしくは略してグラハスと呼ばれてる。
寮の部屋は2人、もしくは3人部屋で、それぞれ入寮の際に希望等を訊かれて、一応部屋割りが考慮されるらしい。
ボクは舞と一緒の部屋が空いていないか確認する訳もなく、何処でも良いと答えた。
後で知ったけど、生徒会は一人部屋になって、寮じゃなくグランドハウスに部屋を持つ事になるらしい。
仕事で遅くなったりする事があったりするからなのかな、詳しくは知らない。
「ふぃー、ただいまー」
「うぅ……クーラー、クーラーはよ……」
入ってそのままエアコンの前に陣取る蓮乃。
「はいはい」
ボクはエアコンの冷房を点けた。
「ふぉーいーきーかーえーるー」
冷風を浴びて蓮乃の髪がなびき、声も元気になってきた。
「あ、結んであげるよ。今朝は時間なかったし」
「うん、お願いー」
蓮乃はの髪は髪質的に普通に結っても直ぐ解けるので結構コツがいる。
「お団子で良い?」
「うん」
トコトコとエアコンの前に椅子を持ってきてこちらに背を向けて座る。
その背中に道具を持って歩み寄る。
よっぽど暑かったんだな。
蓮乃の髪をセットすると、汗ばんで火照ったうなじが現れた。
「おー、涼しいー。ありがとーサクサク」
「どういたしまして……っと」
ボクもベットに倒れ込む。
軽く目をつぶって疲れた頭を労る。
サクサクというあだ名は名前が朔月 咲弥だからか、昔からよく呼ばれるあだ名で、性格的にもあってると自分でも思う。
蓮乃にいたっては自己紹介した時に美味しそうだよね、と言われた。
美味しそうって何だよ、ボクはお菓子じゃないよ、てツッコンだら驚いた顔して、その後一人でウケてた。
第一印象は変な人だったなー、そういえば。
その髪をまとめてクーラーに冷やされて元気を取り戻した蓮乃は、机にタブレットPCを出して何か作業を始めてた。
また何かのイラスト描いてるのかな。
前に演劇部のパンフレットのイラスト描いたりしてたし、そういうのだと思う。
作業中は絶対に見せてくれないんだもん。
前に無理に覗こうとしたら一週間謝るまで無視されたからね。
寮の同室で気まずくなるのは辛い。
もともと二人で何かする訳ではないから、見た目にはそんなに変わらないんだけどね。
もう一人の同居人の先輩にまで何とかしなさい、て怒られた。
「ふわっ……」
小さく欠伸が漏れる。
こうなると布団の包容力にそのまま身を委ねたくなるな。
部活にも入ってないからこういう時ヒマだ。
何となく手持ち無沙汰で、ベッドから立ち上がって、窓辺に寄ってみる。
「あ……」
グランドハウスに向かって、キラキラ金色の髪を陽光に輝かせて足早に歩く姿が見えた。
「ちょっと出てくるね」
「あーい」
蓮乃の返事を聞き終わるより早く部屋を出て、グランドハウスに向かう。
その足音はどこか弾んでいた。
「はぁ……はぁ……」
全力ダッシュした訳では無いのに、息が切れていた。
衰えたなー……。
一年間部活やってなかったツケだな。
あと、暑い。
外がこんなに暑いことをすっかり忘れていた。
「うひー……」
グランドハウスに着く頃には、折角の冷えた体がもう汗をかきはじめてた。
食堂とかをチラって見ても舞の姿は見当たらない。
と、すると……。
確か、生徒会の部屋は一番上の階だっけ。
「ふぅー……」
階段の前で一息つく。
別に立ち入り禁止になってる訳でもないけど、普段入ることのない領域に少し緊張する。
よし、行こう。
最上階に着くと、下の喧騒は何処か遠く、この階の住人が出払ってるからか、とても静かだった。
舞は部屋にいるのかな。
って……!
「あー……」
部屋が分からない。
ドアの横には正方形のプレートに1から5まで号室を表す数字がそれぞれ書かれてるだけだった。
「うーん……」
困った。
たぶん、生徒会長だから最大の5か最小の1であるとは思うけど……。
ノックしてみて舞じゃなかったらどうしよう……。
生徒会に親しい人なんてもちろんいない。
人見知りを発動した臆病な心が鼓動をだんだんと速めていく。
オロオロしてると、階段登りきってすぐの1番の扉の奥からスリッパの音が近付いてきた。
「あ、葵ちゃ……あれ?誰もいない?確かに足音が音したんだけど……」
開く直前にドアの影に息を押し殺して隠れた。
でも、その少し開いたドアの向こうから聞こえた声は幸いにも舞の声だった。
「舞?」
小さく問いかけてみる。
緊張してたせいで思ったよりも小さかったかもしれない。
「え?」
ドアの開いてる方に歩み寄る。
「舞」
「あ、ちょ、ちょっと待って」
バタンと目が合った瞬間に閉められた。
えーーーーーーーーーーーーーー……………………!?
ちょっと思い描いた感動的な再会シーンはもろくも崩れ去った。
ちょっと涙まで零れそうになってたのに……。
あ、いや、やっぱり、今の無しで……!
何とも思ってない……!
感動的なとか何も考えてない……!
あまりのショックと混乱で誰にもする必要のない言い訳を並べ立てた。
「あら、どちら様?」
お陰で後ろから階段を登ってくる人の気配に気づけなかった。
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