向日葵の蕾の頃

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「あらあら、会長さん行ってしまいましたね」 「咲弥姫のあの上目遣いに耐えるんだから、相当だよ」 「だから姫はやめてくださいって。それに、別にそんなに凄く無いですよ、ボクの上目遣いなんて」 というか、普段しないから上目遣いというより、睨んでなかったかと不安になるレベルだし。 「まっ、話してほしくないみたいだからこの話は私達からはできないね」 「そうね。ある意味そうなのかもしれないわね」 含みのある言い方に気にはなったけど、ボクは気にならないフリをした。 舞が去ってからも先輩達の食事にボクは付き合っていた。 そう言えば、連絡先ぐらい交換しとけば良かったな。 そんな暇すら無かったような気がするけど。 また機会あるかな……あるよね、同じ学校だもん。 「そうだ、咲弥ちゃん、夏休みはお暇?」 椛先輩が両手を合わせて小首を傾げて尋ねてくる。 こういう仕草が様になるって凄いよなー。 「うーん……まぁ、補習があるくらいですね」 部活も今は入ってないし、お盆だからといって、おばさんの家に戻るつもりはなかった。 お墓参りくらいは行きたいけど、一応日帰りでできるし。 「それじゃ、ちょうど良かった」 「ん?」 「ああ、あれか!うん、良いかもしれないね」 「ん?ん?」 話が見えない。 双子同士で通じ合ってるけど、ボクにそのテレパシーは受信できない。 「朗読劇、やってみない?」 「朗読劇……?」 「毎年この学校のボランティア活動の一環でね、施設の子達の所に朗読劇をしに行くのよ」 「参加は希望者のみなんだけど、どうかしら?」 朗読劇か……。 心の古傷になろうとしてるところがムズ痒く疼く。 お姉ちゃんが演劇をやっていて、よく台本の読み合わせに付き合っていたのを思い出した。 ボクの大根役者っぷりに、たまに笑い堪えるの必死で練習にならないよーとか言われた。 役の気持ちになりきるとかよく分からなかったんだからしょうがないじゃん。 「うーん……考えさせてください」 いきなり断るのもアレなので、とりあえず保留にさせてもらう。 「希望者は明後日15時にグラハスの小講堂に集まってもらうから、良かったら来てね」 「先輩達も参加するんですか?」 「一応ね。と言っても私たちは演技指導するだけだよ。参加するのはほとんど演劇部の新入部員だしね」 「本格的な感じなんですか?」 「そんな大したことはしないよ。ただ、読み手達で作品の世界観をちゃんと共有できるように手伝うだけ。そこがバラバラだと聞いてる方も混乱してしまうからね」 「なるほどー」 物語で想像してる世界が皆と同じとは限らない。 「それじゃ、私達も部活に戻りましょうか」 「そうだね」 トレイを片付けに立ちあがる先輩達にボクも合わせる。 「またね、咲弥ちゃん」 「あ、はい。部活頑張ってください」 2人は下駄箱の方に歩んでいく。 それとは反対にボクは自分の部屋に歩を進めようとした。
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