善悪の剣

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男は道端にある大きな石の上に座り、その老人を目で追う。 坂を下った所にある古びた家に入って行くのが見えた。 男はその村を石の上に座ったまま見下ろした。 山間のその村は川を挟み、その両岸に申し訳程度に集落があるだけだった。 山を越える途中でその村を見付け、この数日、村に滞在していた。 昼間はその石の上に座り、その集落をじっと見て、日が暮れると川の傍に行き、その日食べるだけの魚を採り焼いて食った。 村には村の掟がある。 川を汚す事も無く、流れる川の岸辺で麻布を身体に掛けて眠る。 川の水で腹を満たし、顔を洗う。冷たい水が心地良かった。 日が落ちて、男は川の傍に向かおうと石から立ち上がった。 すると、さっきの老人が家から出て坂道を上って来るのが見えた。 「おーい」 老人は坂の途中から大声を出して男に手を振っているのが見えた。 男は尻の土を払い、老人の方へと坂を下った。 「お前さん。どうせ今日も川の水を飲んで過ごすんじゃろ…」 老人は口元を緩めて笑う。 「良かったら家に来い。なあに、わしとばあさんの二人暮らしじゃ…。大したもてなしも出来んが、夜の寒さくらいは凌げる」 男は、俯いたまま、 「ありがとう…」 と礼を言った。
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