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兵衛は冷たい川の中に首まで浸かり、佐門を見る。
「佐門殿…。あなたは単なる鍛冶屋では無かろう…」
佐門は月を見上げた。
「鍛冶屋ですよ…。代々続く鍛冶屋です」
兵衛は佐門の横に来て、石の上に座った。
「代々鍛冶屋なんてやっていると、鍛冶屋の仕事だけじゃない…。他の仕事も受け継がれる…。自分の作った刀の切れ味は自分で試す。そんな事を繰り返していると、人を斬る技術も自然と身について、受け継がれていく事になる…。俺はそれが嫌で、全部捨てて逃げ出したんです」
兵衛は佐門から目を逸らした。
「身近にいる人々を守るための剣。人を斬るだけの剣じゃなく、そんなモノもある。じいさんにそう言われた事を思い出したのです…」
兵衛はコクリと頷いた。
「だけど、そんな事も、時が経てば忘れ去られ、私の教えた剣が単なる人殺しの剣になる。それもわかっています。剣なんてたかが道具で、それを持つ人によって、善悪が分かれる。そんなモノです…」
兵衛は川の水を手で掬い顔を洗った。
「兵衛殿…。此処の衆の行く末はあなたに託します。私は私の持つすべてを皆に伝えますので…」
佐門は川から出ると、褌を絞った。
そして服を着ると工房へと戻って行った。
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