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「暗くなってからじゃ、わしも目が見えん。他に包丁は無かったか」
佐門はそれを聞いて立ち上がった。
「良ければ俺が研ごうか…」
老人は立った佐門を見上げて、
「目立て出来るのか…」
佐門は微笑むと土間へと下りて行く。
そして土間の端に置いていた麻の袋から砥石を取り出した。
老人も土間へと下りて来て、男の取り出した砥石を見る。
「あんた、研師か…。立派な砥石じゃな…」
男は水場へ行き、無言で老婆に手を差し出す。
「包丁…」
「あ、ああ…」
老婆は錆びた包丁を佐門に手渡した。
佐門はその錆びた包丁の刃に親指を当てて、包丁の刃の欠けた部分を見る。
そして、砥石に水を掛けると包丁を砥石に滑らせた。
シャコシャコと心地良い音が土間に響く。
見る見るうちに錆びた包丁は輝きを取り戻して行く。
何度か包丁を洗い、その刃先に指を当て、また研ぐ。
それを繰り返し、老婆の渡した錆びた包丁は輝きを取り戻した。
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