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飯野は帰宅するとすぐに晩御飯を食べ、寝る支度を済ませた。
そして、いつものように寝る前にデスクに向き合う。
デスクの引き出しから㊙と記された封筒を取り出し、中からUSBとパソコンを取り出した。
パソコンを起動し、USB内の「製造コードAXIAL-28168Fに関する報告書」というデータに目を通し、今日の記録を打ち込んでいく。
――報告内容――
製造コードAXIAL-28168F――別名、篠ノ井勇作に関する報告。
本日も篠ノ井勇作は何事もなく業務を終えていた。ただ、篠ノ井自身が夢を見れていないと言った由の発言をしており、篠ノ井は後天的なDSSであると考えられる。
AIは自ら学習し、夢を見なくなる。製造時は夢を見るようにプログラムしていても、今回のように次第に夢を見なくなることもあるようだ。
何らかの処置が必要なことは明白である。
折をみて、プログラムを修正する措置を取る予定である。
――――――――
飯野は報告書をメールで送信し、パソコンを閉じた。
部屋の電気を消して、寝床に着く。
ふと、飯野は思う。
「うつし世は夢、よるの夢こそまこと」なんて言葉があったけど、篠ノ井や堤にとっては「うつし世」も「よるの夢」も偽りなのだろうな。彼らが本当の意味で夢を見ることはあるのだろうか、と。
私にとってもそれは例外ではないのだろう。私も自分が真の夢を見ているとは証明できないのだから。
そんなことを考えながら、瞼を閉じる。
今日は夢を見られるだろうか。
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