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間もなくして一人の女性が診察室へ入ってきた。十代ほどのその女性は白いセーターの上から黒いコートを羽織っており、毛糸の手袋までしている。
「こんにちは。堤さんですね。どうぞおかけください」
勧められた椅子に堤が座ると、篠ノ井が話し始めた。
「先ほど書いてもらった問診票を見させてもらったのですが、夢を見られない……と。夢を見たことがないというのはここ最近の話でしょうか。それとも、今までずっとでしょうか」
「ずっとです。生まれてきてから十六年間、ずっと……。今まではそれが普通だと思って生きてきたんですけど、高校生になったくらいから普通じゃないんだなって気づいて……。夢を見てみたいんです。これって治るんでしょうか?」
「もちろん治ります。それも今日のうちに治ります。これから簡単な治療をさせていただくんですけど、その前にいくつか簡単な質問をしてもいいですか?」
篠ノ井の「治ります」という言葉を聞いて堤の表情はほんの少し和らいだ。
「よろしくお願いします」
「では、まず年齢を聞いてもいいですか?」
「十六歳です」
「ありがとうございます。ところで堤さんは七年前の今の時間帯、何をしていたか覚えていますか?」
「ええ、もちろんです。小学校の体育館で遊んでいました。エミちゃんって子がいて、その子と体育館で一輪車の練習をしていました」
「分かりました、ありがとうございます。三年前の今頃は何をしていましたか?」
「中学校で授業を受けていました。今の時間は数学の授業で三平方の定理について勉強していました」
「はい、ありがとうございます。最後の質問です。今日は何で来られましたか? 自転車や交通機関などを利用されてきましたか?」
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