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しばらくしてから堤が目を覚ました。
「おはようございます、堤さん。夢は見られましたか?」
堤は眠たそうに返事をする。
「おはようございます。夢は……見れました。生まれて初めて夢というものを見ました。凄く……不思議な感じでした」
「差し支えなければ、どんな夢を見たのか伺ってもいいですか?」
「大丈夫です。夢の中で……私はどこか知らない街の中を歩いて……買い物をしてました。服を買ったり、食べものを食べたりしてました。今はこれだけしか思い出せませんが、こんな感じで大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫です。夢、見られて良かったですね」
「本当に……よかったです。あと……一つだけ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「いいですよ。何ですか?」
「今話してる……この状況は夢じゃないですよね?」
堤のその発言に篠ノ井は思わず笑みをこぼした。
「夢じゃないですよ。大丈夫です、ちゃんと現実です」
篠ノ井が笑ったのを見て恥ずかしくなったのか、堤は照れくさそうに返答する。
「そうですよね……現実ですよね……」
「初めて夢を見られる方で同じような質問をされる方もいますので、心配しなくても大丈夫ですよ。さて、治療は以上になります。今日から夢を見ていただけると思いますが、最後に私の方から簡単な質問をしてもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「十年前の今頃は何をしていたか、覚えていますか?」
堤は顎に手を当てて考えていたが、思い出せないようだった。
「すみません、小さい頃のことなのでうまく思い出せません」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。何はともあれ、今日はお疲れ様でした。暑いと思うので気を付けてくださいね」
「ありがとうございました」
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