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堤が診察室から出ていき、その日の診療も終わった。
診療所のスタッフも帰宅した後、篠ノ井、飯野の二人は残って書類を整理していた。
「今日来た堤さんって人、あの人もAIだったな」
篠ノ井は書類に目を通しながら口を開いた。
「そのようですね。典型的なDSSの症状が出ていました」
「DSSは本当に不思議な病気だ。AIだけがかかる病気……DSS……。AIが病気にかかる、だなんて表現もこのご時世特有のものだよね。DSSはプログラム中のただのバグなのにさ……」
「そうは言いましても、この社会はAIと人間が手を取り合って成り立っていますから……。AIたちに彼女ら自身がAIであると気づかれてはいけません。彼女らを一人の人間として接しなければ……社会が崩壊します。大昔に起きた、AIたちによる反乱が起きかねません」
「AIも人間か……まったく難しい世の中になったものだよ……。話を元に戻そうか、堤さんの話だ。彼女、DSSの症状が大きく分けて二点ほど出ていたけど、何か分かるかな?」
「一点目が記憶に関する症状、二点目は……服装……ですよね?」
「その通り。まず、記憶に関して話をしようか。人間は普通、七年前の今頃何してましたか、なんて聞かれてもはっきりと答えられない。しかし、彼女は話せてしまっていた。普通の人間はあんなに鮮明に話せない。彼女にとっての昔の記憶は事前にプログラムされたものだろうが、それを話せるのは人間らしくない」
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