共犯者と運命共同体

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――  女は自分の家に帰ってきた。鍵を開けて中に入ると、女はすぐに部屋の鍵を閉める。ここは彼女にとっての聖域だ。誰の目にも触れられてはいけない。靴を脱いで、リビングに通じる扉を開ける。  その女の部屋には一人の男の写真が壁一面に張り巡らされていた。  笑っている顔。怒っている顔。怯えている顔。安心している顔。その蓄積されてきた写真の表情は数百枚に及んでいた。それら一枚一枚を確認して、女は安堵のため息をついた。  それにしてもあのストーカー男は馬鹿だと女は思った。ストーカーをするのなら相手にバレずにしなくてはならない。ストーカーは自分に対しての警戒が薄く、常に自分が優位に立っていると思い込んでいる。向こうから接触をかけてくるとは微塵も疑っていないのだ。その対象が女であるならば尚のことである。  だから、あの男を見通し悪い路地から彼の車に向かって突き飛ばすことは簡単だった。夢中になって私の家の覗いているところを、後ろから少し押すだけだ。そうするだけで、あの邪魔な男はいなくなり代わりに彼と接点を持つことができる。  彼が通報しないことも予想できた。軌道に乗ってきた仕事に、愛するかわいい彼女とお腹にいる新しい命。それら全てを手放すことは簡単ではないはず。  ようやくこれで、彼と私しか知らない秘密を共有することができた。それは、彼女が長い間求めてきたことで、唯一の生きがいだった。  女は部屋一面に張り巡らされる直哉の写真を見て撫でるように呟いた。 「今日から私たちは運命共同体ね」
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