共犯者と運命共同体

5/10

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 夜になっても死体処理について考えが進むことはなかった。ミステリ小説に登場するような犯人たちが行っているような死体処理方法はいくつか頭に浮かんだけれど、それを実行する勇気はとても持てなかった。それは原因は直哉は今更になって、自分がしたことに後悔し始めていたからだった。  もしかしたら、彼は即死じゃなかったのかもしれない。自分が隠ぺい工作を行っているのを誰かに見られているかもしれない。そう考えただけで、直哉の目の前は真っ暗になってしまっていた。 「どうしたの。なにかあった?」  そんな直哉の様子をみて、彼女の麻衣が心配そうに声をかけてくる。 「いいや。なんでもないよ。ただ……仕事でちょっとトラブルがあってさ」直哉は自分の顔に笑顔を張り付けてからいった。「麻衣はどう? 体調に変化はない?」 「今はまだ大丈夫。でも、なんだが実感持てないな。このお腹の中にもう命があるなんてね。信じられる? もうすぐ私たちパパとママになるのよ」  慈愛に満ちた笑顔を浮かべて自分のお腹を撫でる麻衣を見て、直哉はまるで自分が麻衣達と違う世界にいるような錯覚を覚えた。麻衣とお腹の中にいる赤ん坊は、自分からものすごく遠くの場所で幸せを築いているのだ。  直哉の携帯が鳴ったのはその時だった。番号を確認すると、見たこともない番号からだった。少なくとも、自分のアドレス帳には登録されていないはずだ。直哉は自分の鼓動が早くなっていくのを感じた。麻衣に仕事の電話だと告げて、寝室に入り扉を閉めた。  一度大きく深呼吸をしてから、電話を取る。すると、電話の主は開口一番にこう言った。 「あなたが今朝したことについてお話したいことがあります」  直哉は自分の心臓が握り潰されたように縮小した気がした。やはり、第三者に事故を見られていたのだ。電話の主はどうやら女のようだった。 「明日の17時にあなたが事故を起こした場所から一番近い喫茶店に来てください。赤い帽子を被ってお待ちしています」  女は言い終えると、電話の回線をハサミで切ってしまったみたいに唐突に通話を終了させた。そこに直哉が何かを質問する時間はなかった。しかし、時間が与えられたとしても直哉が何かを質問することはできなかったと思う。それほどに直哉の視界は真っ暗で頭の中は真っ白だった。  ただはっきりしているのは、もう直哉は引き戻せないところまで来てしまっているという事実だった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加