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待ち合わせの時間になり喫茶店の店内を見渡すと、入り口から一番遠い位置の席に赤いニット帽を被った女性の姿を見つけた。念のため、ほかに赤い帽子を被った女性がいないか確かめたが彼女の以外には見つからない。どうやら、あの女性が昨晩電話をかけてきた人物のようだ。長い髪の毛をした若い女性で、なんとも捉えようもない容姿をした人物だった。年齢はおそらく直哉と同じか年下のように見えた。
直哉は覚悟を決めて女性の座っている席に向かった。その途中に女性も直哉の存在に気づいたのだろう。彼女は持っていたカップをコースターの上に置いて、佇まいを直した。
「どうぞ、座ってください」と彼女は簡潔に言った。その声はやはり、昨日の電話の声と同じだった。
言われたとおりに席に座ると少しの間、居心地の悪い沈黙が流れた。しかし、それも当然だろう。なにしろ、彼女が昨日の事故を知っているのなら今彼女の目の前にいるのは正真正銘の殺人犯なのだ。そんな相手を前にして緊張しないはずがない。
しかしこのまま黙っているわけにもいかない。今こうしている間も、車のトランクの中には一人の人間の身体が死に続けているのだ。早急にあの死体をどうにかしなくてはならない。
沈黙の間を埋めるように店員が注文をとりに来た後、直哉から口を開こうと思った瞬間、それを制するように彼女は言った。
「……もう、あの男性の身体は処理したんですか?」
思いがけない質問に直哉は自分の身体がこわばるのを感じた。
「まだしていないです」
直哉は声を絞り出すように言った。
「でしたら、私にもその処理を手伝わせてください」
直哉は彼女が言っていることを理解するために数秒の時間をかけたが、結局結論はでなかった。
「事情を一から説明してくれないかな」
「……あなたが轢き殺した人物は、私のストーカーだった男です」と彼女は乾いた声で言った。「私はあの男から長い期間に渡ってストーカー被害を受けていました。夜道に後をつけてくることなんてことはよくありましたし、真夜中に電話を鳴らしてくることもありました。おそらく、一通りのストーカー行為はされてきたと思います。そのせいで外に出なけれいけないときは、いつも恐怖と隣り合わせでした」
「警察には相談しなかったかい?」
「もちろんしました。でも、警察は週に2、3回家の周辺をパトロールしてくれるだけで、ほかに具体的なことはなにもしてくれませんでした。多分、事件が起こるまで本格的に捜査をするつもりはなかったんでしょう」
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