共犯者と運命共同体

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 死体を処理する方法は大きく分けて二通りある。その死体を『隠す』か『消す』かだ。消してしまうことが一番いいのだが、それはいろいろな手順を踏む必要があるし、その間に足がついてしまうことは間違いない。  そこで彼女が提案したのは、一般家庭ごみ収集車を利用する手だった。収集車の回転板で押し込まれた死体はプレス機構のよって押しつぶされて、死体から出た水分は汚水タンクに溜まるため外に漏れることもない。 「重要なのは死体を出すタイミングです」と彼女は言った。「こういったケースはよく試されているそうですが、収集される前に死体が露見してしまうことが多いそうです。ですので、できる限り回収車が来る間際の方がいいかと思います」    結局、直哉は彼女の案に従うことにした。しかしこの案の一番の難所は、男の身体をごみ袋に入るくらいに解体しなければならないことだった。この作業は、ひどく直哉の精神を弱らせた。直哉は何度も嘔吐をしながら、自分の心を無にしてその作業を続けた。  そうして、死体処理は終わった。ようやく、直哉の手元から死体が離れて何事もなかったように収集車の中でミンチにされていったのだ。 「君のおかげでなんとかなったよ。ありがとう」 「いえ、私もこれからようやく普通の生活が送れそうです」  すべてが終わった後、直哉たちは車の中で話していた。話している中で、初めて彼女の名前を知った。その名前は、彼女から感じられるミステリアスな雰囲気とは全く別の可愛らしい名前だった。    他愛もない話の後、直哉は思い出したように言った。 「今となってはどうでもいいことだけど、君は事故をアパートから見ていたんだろう? あの場所に他に誰かいなかったかな。気のせいかもしれないけれど、あの男は誰かに突き飛ばされたように見えたんだ」  彼女は少し自分の記憶を探るように考え込んだ。  ややあって、彼女は言った。 「私が見た範囲ではそんな人影はなかったと思いますよ。それに、もし私がそれを見ていたのなら最初に直哉さんに教えています」  直哉はそれを聞いて少し残念だと思ったが、すぐに思い直した。もう過ぎてしまったことなのだ。今からそんなことを掘り返しても仕方がない。    殺風景だった風景も色彩を取り戻し始めて、誰かに見られているような視線も今ではあまり、感じなくなっていた。こうして日常に戻っていくのだろうか。いつか、あの男を轢いた時の衝撃も、身体を解体した時の感触も忘れられる時が来るのだろうか。  それはもちろん時間が経たないと直哉自身分からない。でも、一つだけわかることはある。  僕は隣に座る彼女をチラリと見る。  それは僕たちが共犯者だということだ。
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