出逢い

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藤堂には、息子が二人いた。 1人は聡明そうな大学生の梗(キョウ)。 もう1人は繊細な感じが否めないまだ小学六年生の蘭(ラン)。 この蘭との出会いが、龍二に大きな影響を与えるとは、この頃全く考えていなかった。 「蘭はね、少し引っ込み思案なところがあるのよ」 ふたりの母親で、美しい顔立ちの香織(カオリ)が言った。 梗のほうは父親似の自信家で、友人も多く、大学生活を謳歌しているように見えた。 けれど蘭は、いつも静かに本を読んでいるか、ぼんやりと空や植物を見ていることが多かった。 「蘭にたまに話しかけてやって貰えると助かります」 香織に頼まれて「分かりました」と答えたが、龍二とて小学生の扱いなど全く分からない。 蘭は、色白の小さな顔に薄い色素の大きな瞳と髪色をしていて、黙っていると人形のように美しかった。 まるで汚れを知らない蘭の瞳を初めて見た時は、自分が随分と汚れているように感じてしまった。 「森辺…さん?」 ある日曜日の朝。 藤堂家の庭で、龍二が洗車をしていると蘭がやって来た。 「はい、蘭様。おはようございます」 「車、洗うの気持ち良さそう…」 7月の晴れ渡る空。 ホースから出る水で虹が出来るくらいにキラキラと爽やかな朝だった。 「蘭様もやってみますか?」 龍二はそう言ってホースを蘭に渡す。 「うん!」 蘭は嬉しそうに破顔する。 初めて見る蘭の笑顔に、龍二は釘付けになってしまった。 こんな美しい少年がいるだろうか。 ピシュ!と水が弾けて、龍二にかかる。 「うわっ」 龍二が驚くと、蘭は悪戯っぽい顔で笑った。 「やりましたね」 龍二も楽しくなって笑う。 「アハハ…ごめんなさい!」 蘭は、また楽しそうに笑っている。 二人で、水を飛ばしあってしばらく遊んだ。 心が解れていく。 言葉は無くても通じ合うことができるのだ、と龍二は蘭の笑顔を見ながら思った。
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