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蘭は少し身体が弱く、よく熱を出して学校を休んだ。 その日は、大切な取引先でのパーティーがあり、藤堂は家族で参加する為に夕方から出かけると言う。 蘭は少し熱があり床についていたが、藤堂は「寝かせておけばよい」と気にする風でなかった。 けれど香織は、心配そうに龍二の元にやって来て言った。 「パーティーには、タクシーで行くので、森辺さんは蘭に何か会った時の為に待機して貰えますか?」 母親は、いつの時代も子供の心配をしすぎる。 けれど心持ちは、よく分かるので、 「かしこまりました」と香織に頭を下げた。 ___ 藤堂家には、料理を担当する三宅という女性がいて、蘭の為に粥を用意して持ってきた。 「森辺さん」 蘭の部屋の前で待機していた龍二に三宅が声をかける。 「はい。お疲れ様です」 龍二は頭を下げる。 「蘭様は、寝てらっしゃる?」 「はい、おそらく。何も物音はしませんので」 三宅は「そうですか」と言い、コンコンと蘭の部屋をノックしてドアを開けた。 三宅と一緒に部屋を覗くと、蘭は頭に冷却シートを貼られて静かに眠っている。 少し頬が赤く蒸気していて、龍二は不謹慎にもその姿にドキリとしてしまった。 「蘭様」 三宅がそっと声を掛けると、ほどなくして蘭は薄らと目を開けた。 「三宅さん…」 「お加減どうですか?お粥、食べられそうですか?」 三宅は、そう言ってコトリとベッドサイドのテーブルに粥と薬と水を乗せたトレイを置く。 「うん…お腹空いた」 蘭はそう言って身体を起こす。 「そうですか。じゃあ食べたら、お薬も飲んで下さいね」 三宅は優しく言うと、龍二にも「良かったですね」と告げて部屋を出ていった。
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