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「で、なんかあった?」
「……別に」
美津の言葉に、ため息をつきながら結が美津の顔を覗き込む。
「嘘、下手すぎるでしょ」
目の前にいる結の顔を見ると、なんとなく素直に言えないのは、中学のときから変わっていない。
「大人になってまでこんな寒空の中、公園のベンチに呼び出されるとは思わなかった」
結は大げさにそう言い、わざと寒そうにココアの缶を手で温める仕草をした。
「……ちょっと、会社で、まぁ、大したことじゃないんだけど」
しどろもどろに話す美津に結は背中を叩く。
「わっ!ちょっと、こぼれたじゃん!」
美津が持っていたカフェオレが少しこぼれた。
それを見て結が笑う。
「ごめんごめん」
「本当に悪いって思ってる?」
美津がこぼれた場所をティッシュでふく。今日は近所で待ち合わせだったからジーパンというラフな格好で、こぼれた箇所はほとんど目立たなかった。
おそらく結はそれも見越して、絶妙な力で押したのだと美津はわかった。
「お詫びに、なんでも話聞くから。何時間でもいいよ」
結の顔を見ると、わかりにくい優しさを隠すような、いたずらな笑みを浮かべていた。
あのときから変わっていない、結の優しい部分にはいつもすごいなと感じる。
それも、あの10日間の出来事がなければ、知らないままだったかもしれない。
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