レディエンス

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 今年の春、中学三年に進級した。  来年の今頃は都内の高校にでも進学しているか、それとも中卒で働きに出ているか。家は貧困ではない。温かい食事、安全な寝床、優しい母親、無口な父親、好奇心旺盛な妹の至って平凡な四人家族だ。  今の生活に不満はない。が、充実感もない。趣味はなく、小学校の頃からの友達に誘われてサッカー部に入ったものの、サッカーが大好きというわけではない。運動神経はそこそこで、勉強は中の下。頑張れば中の中や中の上になることもある。  何一つ取り柄のない自分は、このまま淡々と日常を過ごし、無難な高校へ進学し、そこそこ性格の良い彼女を作り、二流企業に就職して、結婚して、子供を作ってーーーーと、何一つ突飛なことなく普通の人生を歩むのだと思う。 「これで、いいのかな」  ポツリと零した言葉に、前を歩く友人が振り返る。 「どうした、実春。何か言ったか?」 「いや、何でもない」 「何でもないのかよ。けど、もし何かあったらちゃんと言えよな。お前ってすぐにため込んで爆発させる奴だからさ」  肩を竦めて心配する友人の存在がありがたくて、実春はフッと笑顔を漏らした。 「ああ、ありがとう。相談事があったら相談するよ」 「約束だぞ!」  拳を突き出す友人に、実春は拳を突き返した。
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