84人が本棚に入れています
本棚に追加
世分は漫画家として、雑誌で連載を持っているが、そのキャラクターのデザインをしたのは俺であった。だから、俺も漫画が描ける。
「このページからか…………」
世分はストーリーと構図を指示しているが、絵がとても下手なのだ。そこで、俺が描いていたら、売れてしまったので、続けるしかなくなってしまった。
「ここは、もっと瑛人みたいな感じで頼む」
「俺は自分の姿が見えないよ」
世分は絵が下手だが、俺と千鶴だけは誰よりも上手に描ける。そこで、主人公だけは世分に描いて貰う事にした。
「背景とモブは、明日、スタッフに描いて貰ってください」
「そうします」
デジタルなので着色は楽だが、そこには世分の拘りがあった。
「…………ごめんな、瑛人。俺が絵を奪ってしまった」
俺が描いているとバレない為に、俺は自分の絵を描く事を禁じている。だから、映像の分野で、仕事を続けた。
「俺は、世分がいればいい…………」
俺が絵を描き続けていると、背中から世分が抱き込んできた。
「俺の可愛い弟……本当に可愛い」
この台詞は、妹の千鶴にもよく言っている。
「俺が死んだら、この家を千鶴にあげる。それで、著作権など知的財産は、瑛人に残す」
「死ぬなんて言うな…………」
俺は泣きたい気分で、世分を見た。
世分は身体が弱く、様々な病気を体験してきた。死に掛けた事も、何度もある。その度に、俺は、世分がいなければ生きてゆきたくないと、実感してしまうのだ。
最初のコメントを投稿しよう!