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「待ってください、嵯峨さん!そんなに速く歩かないでください!」
俺は事務所の近くに、月極の駐車場を借り、通勤を車に切り替えた。
車のある駐車場まで歩くと、後方で明智がヨロヨロと倒れそうになっていた。腰もきつそうだが、時折、尻を押さえているので、切れ痔も痛いのだろう。
俺は築茂に電話を掛けると、医者の予約を頼んでおいた。
「明智、行くぞ」
「分かりました!」
やっと明智が車に乗り込んだのだが、座った瞬間に顔を顰めていた。そこで、ドーナッツ型の座布団を出すと、今度は顔を真っ赤にした。
「築茂さんが、病院を予約してくれた。まずは、そこで治療して、薬を貰う」
「どこか、悪いのですか?」
車を走らせると、俺は街の今も確認しておいた。完全に離れていた期間は無いが、知らない店は多くある。
「昔は、駅前が一番賑わっていた…………」
だが今は、駅から離れた場所にある、国道添いのほうが発展している。しかし、通勤には今も、電車を利用する人が多い。
「寂びれた場所は、あんまり、変わっていないな…………」
だが、俺の記憶にある街と、目の前に広がる街を比較すると、行き交う人だけが変わっただけの気もしてくる。
でも、もう、明日美はいない。
「もうすぐ、病院に到着する」
明智は俺が病気だと思ったらしいが、病院の看板を見て、自分だと理解したようだ。
「……………………どうして」
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