第五章 タイムカプセル 夜

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「俺はきっと、長くは生きられない。だから、こんな叔父さんがいたのだと、金と作品を残しておきたい」 「…………世分。俺の誓いは、一緒に生きるだ。世分がいない世界なんて必要ない」  しかし、世分の体調は悪化している。最近、眠っている時間が増えているのは、もう起きている事も辛いのだろう。 「瑛人、俺が死んだら…………作品を頼む。それと、その時は、もう自分の絵を公開してもいい。隠れて描いていただろう?」  確かに樫山の別荘にアトリエを作り、時々、絵を描いていた。それは、俺が世分のマンガを描いている限り、世に出す事はない。どうしても、作風で代筆がバレてしまうからだ。  アシスタントも描いてこそのマンガで、それはチームだと分かっている。しかし、バッシングは避けたい。 「樫山、俺が死んだ時は、千鶴を頼む。俺が最も愛した家族で、幸せにしたかった人だ」  世分が、千鶴を可愛がっている事は、全員が知っている。 「それと樫山、俺の分身、瑛人も頼む。これは、見た目に反して無鉄砲で、バカだから」 「知っている」  この誓いを書いた時、世分は意識が無かった。だから、この五つの誓いに世分の文字が無い事が、とても寂しい。 「瑛人、俺は永遠に瑛人の心で生きている。それを疑うな……」 「分かっている……」  街は騒音に満ちているのに、ここから見ると静かに綺麗で、ただ輝いている。  そして、俺達の夢は、ここから始またのだ。
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