第一章 タイムカプセル 花

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「コンサートは順調だった。だが、終盤にさしかかった所で、その事故は起きた」  アスミは歌も上手で、踊りも上手かった。そして、一旦、照明が消え、アスミが純白のドレスで現れた。 「薄い布が天井から、何枚も下がっていて、霧みたいな設定だった。色々な色彩の布が舞台に舞い、その中に純白のアスミが佇んでいる筈だった…………」  しかし、照明に現れたのは、真っ赤なドレスを着たアスミであった。しかも、その胸には、長いパイプのようなものが刺さり、血が吹き出していた。その噴水のような血を浴びて、アスミは真っ赤になっていたのだ。 「布を吊っていたパイプが折れ、アスミの胸を突き刺した…………」 「事故ですよね?」   確かに、それは事故で処理された。 「……続きというのか、別の側面での話もある」  俺は、公会堂付近の写真を撮影すると、建物の中に入れないか交渉してみた。しかし、俺が記者だと気付くと、追い返されてしまった。  この公会堂にも、未解決事件のマニアや、ファンが来ていたらしい。公会堂では、もう事故を忘れたいのだろう。  俺は公会堂から、最寄り駅まで歩くと、電車の時刻を確認した。そして、暫く電車が来ないと分かると、駅前の喫茶店に入った。 「話は変わって、アスミがいた中学校での話だ。そこには、大人になれないと言われた、小児がんの少年がいた。その子が卒業の時に、全員に手紙を書いた。だが、読むのは十年後、大人になってからにして欲しいと頼んだ」  喫茶店でコーヒーを飲むと、かなり美味しかった。そこで、地方紙に載せてもいいか確認し、写真を撮っておいた。 「そこで、クラスメートは十年後に開くと約束して、タイムカプセルを埋めた」 「タイムカプセルですか…………レトロですね」
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