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(やだ。そんなふうにして見つめないでよ……)
切なさに心が引き絞られてしまいそうになる。シードの物言いたげな沈黙に耐え切れなくなってしまい、思わず口走っていた。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと話してよ! お願いよ。あたしはあなたが好きなのよ。あなたはどうなの」
「オレは……」
気のせいなんかじゃない。きと、シードも自分の事を想ってくれている。ずっとそう感じた。あなたの言葉が欲しい。そんな願いを込めて見つめ続ける。
シードは視線を絞りながら逡巡している。お願い! 本当の気持ちを教えてとイリアは言いたくなる。均衡が崩れて、お互いの唇が微かに重なりそうになっている。息と息が曖昧に溶け合おうとしている。どちらも瞳を閉じている。その時だった。女性の慌ただしい声が静寂を破ったのだ。
「シード! どこなのーーーーーー」
渡り廊下からだ。サナが呼びかけて懸命に探し回っている。その声の慌ただしさが気になり立ち上がる。
「サナ、あたしはここよ。裏庭の薪棚の近くにいるわよ。そんなに慌ててどうしたの?」
すると、彼女は建物の陰から小走りで駆けつけながら告げたのである。
「大変ですわ。先程、スツラの部下達が玄関に怒鳴り込んできたのでございますよ! 彼等は恐ろしい形相でシードを探しておりましたわ。ここにはいないと言っておきましたわ」
「妙だな。なぜ奴等がオレを探しに来るんだよ?」
「それがね、アロワがスツラに大怪我を負わせて逃げ出したみたいなのよ。あなたはアロワと親しいのよね? スツラがアロワを殺すと息巻いているわ」
「……なんだと」
珍しい事に、シードが黒い瞳を揺らして顔色を変えている。
「まずいな。あいつらより先にアロワを見つけないと大変な事になるぞ。くそっ。どこにいるんだろうな。アロワが逃げ込む場所なんてどこにもないぞ」
すると、厩舎の脇の茂みから不安げな声が聞こえてきたのである。
「シード……、ここよ。あたしはここにいるわ」
えっ。いつの間に……。唐突に現れた美少女の姿にイリアは目を見張っていた。殴られたのか、彼女の目の周囲が鬱血している。しかも、彼女は裸足でここまで来ているらしい。
驚愕の表情を浮かべたシードが繁みに詰め寄って問いかけている。
「おまえ、何があったんだよ?」
「あたし、あいつに踊り子として雇われたの。あいつの屋敷で宴が開かれるの。そこには、バースの属州を牛耳る貴族達が招かれているわ。もちろん、ユリアウス様も来る。今夜、ユリアウス様の杯に毒を入れろと命令されたの」
衝撃的な内容にイリアとシードは息を呑んでいる。
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