3 特訓

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「そんなの出来ないと言ったらあいつに殴られたの。口惜しくて反射的に花瓶を振り回してやったの。そしたら、たまたま額に当たって奴の顔が血まみれになったのよ。あたしは、あいつの寝室のバルコニーから飛び降りて逃げたのよ」  ここまで黙って聞いていたのだが、イリアとしては我慢できなくなって問い詰めていた。 「シード、この子とどういう関係なのよ?」  これに対してアロワが叫んだ。 「そんなの、あんたに関係ないでしょう! こうなったのはオスベル人のせいなのよ。シードを早く解放してよ。あたしと一緒に故郷に逃げるんだからね!」 「一緒に逃げるって、どういうこと?」  呆然となりイリアの脚に力が入らなくなってフラッと後ずさりする。サナによって肩を抱きとめられていた。 「お嬢様、どうか落ち着いてくださいませ」  気遣うように背筋を支えてくれているがイリアは血の気を失っていた。悪い夢に迷い込んでいるような気分で立ち竦んでいたのだ。 「おまえ、なんて馬鹿なことをしたんだ!」  シードの言葉にアロワが言い返している。 「だけど、ユリアウス様を殺したら、あたし、死刑になるのよ。スツラは、毒殺に成功したら逃がしてやると言ったけど、あんな奴のことなんて信用できないわ」  そうだ。その通りである。スツラのことだから約束を反故にする可能性は高い。 (だけど、誰よりも気性の激しいスツラの顔に傷をつけるなんて……。こんなことしたら、八つ裂きにされて殺されるわよ)  なんて無鉄砲な娘なんだと呆れずにはいられない。シードは張り詰めた顔のまま黙り込んでいる。イリアも困惑しているとアレクがやって来た。 「イリア様、この娘は何ですか? どうやら、ナグル人のようですが」 「あのね、この娘、スツラに追われてるのよ」  イリアは簡潔に事情を説明するとアレクは額を押さえた。苦悩したように告げている。 「それは困ったことになりましたね」  どうすべきなのか。イリアはアレクの顔を見つめていると彼は決意しように言った。 「とりあえず、サナ、その娘に新しい服を与えて着替えさせなさい。今すぐ、この娘の主である女将の言い値で買い取ります。騎士階級のイリア様の所有物にすれば、スツラといえども勝手に殺せません。イリア様、これでよろしいですね」  イリアは頷いたものの、事態が飲み込めなくてボーッとしていた。  しかし、とんでもない災いを運んできたアロワは黒猫のような目をギラつかせている。 「やめてよ。こんな女の世話になりたくないわよ。オスベルの人間なんて大嫌いよ!」 「アロワ! 黙れ! 何も言うな!」  シードが厳しく一喝する。アロワは涙目になっている。気まずい空気が漂う最中、シードは不自然なぐらい丁寧に頭を下げたのだ。 「イリア、頼む。この娘が助かるのなら何でもするから協力してくれ」
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