4 奴隷市場の少年

4/5
前へ
/98ページ
次へ
「おっさん、オレを買えよ。ナグルとオスベルの言葉を話せるぜ。いい事を教えてやる。あそこにいる男の名はアレクだ。あいつは博識で性格もいい。あいつは大金を払ってでも買うべき男だよ」 「安心しろ。アレクは競り落として買ったさ。だがな、おまえのことは買えないな」  叔父が言うと、檻に顔を寄せているシードが苛立ったように聞き返した。 「何でだよ?」 「手持ちの金が足りないのさ。おまえは普通に喋れるし利口だとバレちまった。売り値が額がどこまで伸びるか分からん。困ったもんだよ」  ボヤボヤしていたなら誰かに買われてしまう。焦ったイリアは、自分の腕輪と翡翠の髪飾りを差し出して訴えた。 「叔父様! これを質屋に持っていって換金してちょうだい。これで足りるでしょう?」 「駄目だ。その髪飾りは、おまえの母親の形見なんだぞ!」 「いいから、この子を買ってよ。お友達になりたいの」  最初のうちは、叔父も渋面だったが、目に涙を浮かべて訴えるイリアの熱意にほだされたらしい。 「うーむ。それではシードを買うとしようか」  こうして、結果的に叔父とイリアが共同で買うことになった。とりあえず、最初はナントがシードを所有する。そして、その七年後にイリアが主人となるという取り組めをしたのだ。その後、約束した通り、シードが十六歳になると叔父がシードを連れて帰って来たのである。 「シード、新しい主人のイリアに挨拶しろよ」  シードは面倒臭そうにイリアに会釈をするが、イリアは嬉しそうに迎え入れている。 「シード、久しぶりね」  季節風の関係で船が航行する時期は偏っている。こちらの大陸から、あちらの大陸に渡ったら、半年はそのまま留まることになるのだ。  だから、これまでは、年に数ヶ月しかシードとは会えなかった。  事故や事件に遭わないかと、ずっと心配だったのだが、これからは毎日会える。イリアの頬か自然に緩む。 「おかえりなさい。今日から、ずーっとここで暮らす事になるのよ」  久しぶりに見たシードの背中や肩の辺りが逞しくなっている。それに、顔の輪郭が大人の男のように引き締まっていた。  すごくカッコいい。そう想うと、急に、色々と恥ずかしくなってしまった。イリアは頬をポッと赤らめ、そのままモジモジしていると、叔父の合図で玄関から次々と箱が運ばれてきた。これらはイリアへの手土産である。はしゃぎながら、滑らかの手触りの絹製品を手に取ったのだが、艶やかな光を放つショールは天使の羽衣ように美しかった。 「すごいわ。こんなにたくさんあるのね。きゃーー。鼈甲の額飾りも欲しかったのよ! こっちの赤珊瑚も素敵だわ~」  最も気に入ったのは、蔦模様を表現した銀細工製の額飾りと耳飾りだった。細やかな銀色の糸の様な飾りがイリアの前髪の辺りでユラユラと揺れて輝いている。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加