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叔父は、愛しげに目を細めながら言った。
「似合うぞ。砂漠の王宮のお姫様みたいだな。美人だ。シード、偏屈なおまえでさえも目が眩むだろう?」
しかし、シードは皮肉たっぶりに呟いている。
「一張羅を着こんで鏡を見て喜んで我を忘れるところは、おっさんに似ているな」
シードはナントをおっさんと呼ぶ。それぐらい二人は親しい間柄なのだ。主人と従者というよりも歳の離れた親友のようである。
「イリアの土産の腕飾りはもっと値切れたっていうのに、間抜けなおっさんはオレを無視して買っちまったんだぜ」
すると、ナントは拗ねたようにそっぽを向いて言い訳をした。
「だってさぁ、可哀想だろう。あの金細工職人は子供が十人もいると言ってたんだぞぉ。そんなに値切ったら、母ちゃんに叱られるって言うんだぜ」
「いいや、あいつの子供は二人だけだ。毎年、同じように騙されているんだぜ。向こうも、あんたをカモだと思っているのさ」
ナントは雇い主だというのにシードの態度は大きい。それでも、そんなシードの横柄さを叔父は面白がっているようである。
それにしても東方の土産はどれもこれも緻密で繊細で豪華だった。ヒラリヒラリと鏡の前で浮かれているイリアを眺めながらシードがプッと苦笑する。
「イリア、胸のところの生地が余ってるぜ。どんなに着飾っても、貧相な胸はガキの頃と同じだな。裁縫が得意サナに寸法を直してもらえよ」
「ひっどーい。シードったら! ひどーい! やだーーー」
シードは遠慮なく毒を吐くし、いつも素っ気無いけれども本当は優しい。そんな彼のことが大好きだったけれども、イリアの婚約が正式に決定してからイリアと距離を置くようになっている。
(シードは、どう思っているのかしら……)
シードの本音を確かめたいけれども尋ねる勇気はなかった。奴隷と主人の関係なのにイリアは彼をこんなにも想っている。こんな気持ちのまま暮らす事が辛いけれど、こればかりはどうしようもない。
(アロワって娘は、あなたにとって何なの?)
答えを知るのが怖い。たけど、今は、それどころではない。
スツラの脅威を何としても回避しなければならない。
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