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「スツラの手下がバースの墓を荒らして転売しております。スツラは、カーン族の墓から剣を盗みました。先日、わたしはカーン族の族長の息子に進言しました。スツラの屋敷を襲撃して奪い返すべきだと」
ルシルは沼地の邪悪な生き物のような暗い目付きをしている。あんな形で父親を殺されたのだ。復讐の機会を粘り強く狙っていたのだろう。
ルシルの叔母がカーンの村に嫁いだので彼等と交流があるという。カーン族は放牧を生活の糧にしており、たまに山から下りて家畜やチーズなどを売りに街に現れる。
「わたしはスツラの屋敷の警備が手薄になる日を探りました。スツラの父親が商用で旅路に出ており、私兵の大半がいなくなっております。あと二週間は戻りませんわ。狙うなら今です」
「仮に、スツラの暗殺や剣の奪還に成功したとしてもバレるわよ」
「ギリ族の仕業に見せかけます。彼等は、金目のものを奪い去る事件を以前に起こしていますもの。ふふっ、騒動の後、切り刻まれたスツラ死体が金庫の側で横たわるのです」
「その前に軍人が駆けつけるわよ」
「ちょうど指揮官達が入浴する時間帯に行います。わたしの従兄がカーン族の手引きをします。スツラに借金をしている者達も協力者になります。イリア様、あと数日の辛抱です。外出は、お控えくださいね。くれぐれも内密にお願いします」
「わ、分かったわ……」
イリアは頬を強張らせながら頷くしかなかった。ルシル達がスツラに激しい憎しみを抱くのも当然だ。それならば、ルシルの好きなようにさせよう。その時は思ったのだ。
まさか、この企みが後に思いがけない悲劇を招くことになるとは……。
さすがに予想していなかったのである。
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