6 不吉な予感

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6 不吉な予感

 その夜、アロワを匿ってもらえてホッとしていた。ユリアウス邸の裏庭でシードは愛馬の手綱を握ったままイリアを見つめている。それを見上げながらイリアが言った。 「あなたの馬に相乗りしてもいいかしら。内密に話したい事があるの。二人きりになりたいのよ」  イリアを乗せてきた豪奢な輿は先に帰している。 「いいぜ。実は、オレもおまえに話がある」  シードがイリアを馬上へと導いてくれたのだが久しぶりの相乗りである。二人乗りの際に前に座るのはイリアと昔から決めている。ポクポクという蹄の音が長閑に響く。今夜は月が赤い。立派な道の両脇に建っていた豪邸が途切れるとシードが呟いた。 「今夜は、色々と迷惑をかけたな」  シードの声が少し掠れている。 「あいつは妹だ。あいつとは別々の船に乗せられてオスベル辿り着いたんだよ。父は同じだが母親が違う」 「そうなのね。あの子は腹違いの妹という事なのね」 「バースに来た時に偶然に再会して顔を見た瞬間にすぐに分かった。子供の頃と少しも変わっていなかったからな。妹が生きていると分かってホッとしたよ」  それからは、ちょくちょく妹の顔を見に酒場に行っていたというのである。 「父が、フルーラという女に産ませた子だ。フルーラはオスベルで家事奴隷として働いていたが、今は帰郷している」  その時、イリアは年増女の元に通ったという話を思い出していた。同郷の女性……。そうか! そうなのだ。あの女性こそがフルーラなのだ。 「シードは、子供の頃にフルーラさんを解放する為にお金を出したのね!」 「よく知ってるな。フルーラを買い戻す事は簡単だったがアロワは若くて美人だから難しかった。女将は一番高い値を出した者に転売するつもりでいたんだよ。金のほとんどを費やして女将の機嫌をとったよ。おかげでスッカラカンになっちまった」  口調に張りがなかった。振り向かなくても、シードが憔悴しているという事が分かる。 「あなたのお母様はどうしているの?」 「船で輸送されている途中に亡くなった。遺体は海に投げ込まれている。フルーラが母上の遺書をオレに手渡してくれた。オレへの想いが綴られていたよ。オレはどうなろうと構わない。たった一人の妹を守りたい。ユリアウス様はアロワと逃亡するように言っていたらしいが、オレはそんなことはしない」 「どうするの?」 「イリア、頼む! すぐにオレを奴隷の身から解放してくれないか? オレ自身の身体をスツラに売ることで許しを請うつもりだ。あいつの飼い犬になって妹の罪を償おうと思っている」 「駄目よ! そんなの許可できない!」
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