6 不吉な予感

5/5
前へ
/98ページ
次へ
(今夜、恐ろしい事が起きるかもしれないのよ!)    アレク達は階下にいる。襲撃の内容を大声で叫ぶ訳にもいかないがアレクに知らせたい。  閉じ込められてしまったのなら、アロワのように飛び降りるしかない。片足を柵にかけたまま地面を覗き込むと背筋がブルリと震える。地面があまりにも遠くて、どうしても踏ん切りが付かない……。 (好きな人を救えないなんて……。こんなの情けない!)  ふと、気がついた。北側で火がボワッと立ち昇っている。丘の麓にあるスツラの部下の徴税人の館が燃えている。 (そうね。ついに始まったんだわ)   大変な事になってしまった。胸を焦がしていると、扉の向こう側からアレクの声が聞こえてきた。アレクは部屋の外から施錠していた鍵を外して転がるようにして部屋に入ってきた。初めて見せる切羽詰った表情だった。 「お嬢様、暴動が起きたそうです」  サナがイリアに向けて叫んでいる。 「イ、イリア様、大変ですわよ。すぐに避難してくださいませ。このままでは何が起こるか分かりません!」  急に振り向こうとしたせいで身体が傾いている。どうしよう! 「えっ、あっ、あっーーーーっ……。あっー!」  運が悪いことに無様に顎を上げたまま、前ではなく後ろに転がり落ちている。そんな、まさかと思いながらも、イリアは、仰向けの姿勢で後頭部を自室の床に強く打ち付けてしまている。鈍い痛みを感じたが、二階から下に落ちるよりはマシだったのかもしれない。それでも眩暈がした。 「イリア様!」  アレクが必死になってイリアの名前を呼び続けている。危険を知らせる警鐘が街に鳴り響く中、周囲の人達が叫んでいる。もう無理だ、意識が朦朧としてしまって目が霞んでいる。そして……。 「お嬢様、ここから逃げますよ」  アレクがイリアを抱きかかえている。どこに逃げるの。そう問いかけようとしたが、意識の糸がプツリと途絶えていたのだった。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加