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7 暴動の爪痕
濃密な花の香りを感じる。天井のカラフルなモザイク画。牧童の少年女神から啓示を受けている様子が克明に記されている。イリアは戸惑うように呟いた。
「ここは、どこ……! どうなったの?」
誰かの館の一室にいる。枕元のテーブルの花瓶に薔薇が飾られている。
家具や調度品も豪華な部屋の寝台でキョロキョロしていると右肩が鋭く軋んだ。そんなイリアを労わるようにサナが見下ろしている。どうやら、彼女は寝台の脇の椅子に腰掛けたまま、イリアが目覚めるのを待っていたらしい。
「お嬢様、痛む所はございませんか!」
額に手を添えて熱を確かめてからホッしたように言う。
「お熱もありませんね。お嬢様、ここはユリアウス様の邸宅でございますよ。暴徒達が街の北側から押し寄せてきたのですわ。暴徒どもは、裕福な家を襲っているというものですから、我々は慌ててこちらに逃げ込んだのですよ」
イリアの邸宅に比べるとユリアウスの館の警備は強固で安心だ。スツラはどうなったのだろうかと案じているとサナが教えてくれた。
「お嬢様、もう心配ありませんわ」
街を震撼させた暴動は数時間ほどで収束したというのである。
まず最初に四十数人ほどの男達が城壁の門番を殴り殺して街に入ってきて、その後、便乗した市民が暴れ出したようだ。
「暴徒どもは、穀物や金目のものや自分達の家族だった奴隷の女達を奪って立ち去っています。聞いたところによると、ギリ族の若い男が、鉱山の奴隷を引き連れて暴徒を指揮していたようですね」
油壺を下っ端役人の邸宅に次々と投げ込んだが、それらの大邸宅には使用人が大勢いるので、彼等が火消しに励んだお陰でボヤで済んだらしい。
そして、暴徒達の一部がスツラの屋敷を襲撃したというのだ。
「シードの話によると、五人程のギリ族の衣装を着た男達がスツラに襲い掛かってきたきたようなのです。スツラの屋敷では屋敷の使用人が五名も亡くなっています。シードのおかげで、スツラは奇跡的に助かったのですわ。たまたま居合わせたのも何かの縁なのでしょうね」
そんな馬鹿な……。なぜ、生きているのと叫びたくなるのを悟られぬように声の震えを押し殺しながら問いかける。
「そ、それで、シードはどこ?」
「夜警を担当する役人達から取調べを受けておりますわ。今回のことでスツラも機嫌を良くしたのか、アロワのことは水に流してくれました。お嬢様、本当に良かったですわね」
シードとアロワは、それで良くてもルシルの復讐が達成されていない。いてもたってもいられなくなり、再び起き上がろうとするとアレクが神経質な声を出して制した。
「いけませんよ。お嬢様、無理はなさらないでくださいませ」
「ルシルはどこ?」
しかし、側にいたユリアウス邸の古参の娘が首を振っている。
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