7 暴動の爪痕

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「生憎ですが、ルシルはおりませんわ。従兄のことが心配なので見に行くと出たきり戻ってこないんですよ」  イリアは青褪めながらも込み上げる胸の震えを隠し通すしかなかった。ルシルの親戚も襲撃に参加している。それなのに、まだスツラが生きている。 (これは思ったより、ひどい結末になってしまったわね)  事前に暴動が起こると知っていたが、イリアはスツラの暗殺計画を止める気など無かった。正直、スツラなど死んでしまえばいいと思っていたというのに失敗している。そうなると執念深いスツラが、首謀者を見つけて報復するに決まっている。  それを想うと足元から悪寒が突き上げてきて眩暈がしてきた。  すると、そこにアレクがやって来た。 「お嬢様、おかげんはいかがですか」 「もう元気になったわ。早く自宅に戻りましょう。アロワも連れて帰りましょう」  イリアの心は不安に襲われていた。動揺を隠そうと胸を押さえる。暴動の聞き取り調査の為にユリアウスは総督官邸に泊まっている。  また、後で、ユリアウスに世話になったお礼をしなければならないのだが、それはアレクに任せておけばいいだろう。そんな事よりもルシルの事が気になる。  だから、帰る前に、ユリアウス邸の奴隷の娘に伝言を残しておいたのだった。 「あたしが探していたとルシルに伝えておいてね。頼んだわよ……」               ☆ 『スツラの鉱山から逃亡してきた奴隷とギリ族が街に押し寄せたらしいぞ』 『ギリ族が、逃亡奴隷を従えて雪崩れ込んだってことのようだな』  街は噂でもちきりだった。オスベルの治安部隊は街に雪崩込んできた反乱分子を根絶やしにしようとやっきになっている。 「お嬢様、スツラ様の邸宅からアロワを引き取りました」  スツラの機嫌は直ったので、もうアロワは隠れている必要はない。  書類上はイリアの所有物なのでここに連れてきたのだが……。肝心のアロワは不貞腐れたまま裏庭の小屋に引きこもっているようである。  いや、アロワのことはどうでもいい。そんなことよりも暴動のカラクリをスツラが知ったらどうなるのだろう。  スツラの自宅で暴徒と対峙したシードは軍の人達からあれこれと質問されている。  暴徒達は、皆、壁の外に退散しという。ギリ族の村まで討伐に出るつもりでいるが、ギリ族は定住していない。そう簡単には見付からないだろうと、皆が囁いている。 (あたしは知っているわ。犯人はカーン族とルシルなのよ……)  夜遅く、シードが屋敷に帰って来た。シードはサナやアレクの事務所のある棟の一階に暮らしている。シードの部屋の前まで来ると、イリアは息を潜めて立ち止まり息を整える。 「シード、起きてるかしら? お願い……。大切な話があるの」
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