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「スツラは鎖骨のところ斬られて血を流して気絶していたが命には別状はない。今は、首謀者を捕らえようと怒り狂っているみたいだな」
スツラは誰よりも執念深い。街の被害状況を憂慮した役人や軍部なども暴動者を敵視して捕えようと動いている。イリアは悔やんでいた。
「まさか、こんな皮肉な結末になるなど考えてもみなかったわ。シードはスツラを救う側に回ってしまったわね。もしかしたら、ルシルはこう考えるかもしれないわ。あたしが、スツラに情報を流して阻止したってね」
シードは、ウッとのげぞるような姿勢のまま額を抱えている。
「クソ。まいったぜ。おまえが裏切ったと勘違いしたとしても当然だよな。何しろ、スツラを救ったおかげで、妹のアロワが無罪放免になったんだからな」
そうなると、イリアに憎しみが向けられてしまう。早く誤解を解きたい。しかし、ルシルと連絡が取れないのだ。
「うちの倉庫にも泥棒が入ったの。軍に物資を納入した後だったから、盗るものもなくて被害は少なくて済んだわ」
「イリア、今夜はゆっくりと眠ってくれ。おまえも疲れているんだろう」
「あたしなら平気よ。シードこそ傷の手当をしましょう。薬を持って来るわね。アレクの煎じ薬を飲めば楽になるわよ」
その時。戸を開いて踏み込んできた人物がいた。ピリリとした声が響いた。アロワだった。
「そこはシードの部屋よ。夜中にコソコソと何をしているのよ!」
「アロワ、その口の利き方は何だ! おまえは世話になっているんだぞ。おまえの事を解放してくれたのはこの人なんだぞ」
「何を言ってるのよ。あたしは元々は貴族だったのよ。それなのに、オスベルの奴隷商人のせいで奴隷の身に落とされたのよ」
「アロワ! 勘違いするな! おまえは生まれながらの奴隷だ」
シードがピシャリと睥睨している。強い声にアロワがたじろしている。
「どういう事よ?」
「おまえは貴族ではない。奴隷女のフルーラが産んだ子なんだ! 父上は、おまえを認知していない。仮に、オスベルに支配されなくても奴隷のままなんだよ」
「えっ……?」
彼女は相当な衝撃を受けたのか全身が凍りついたように硬直している。
「い、嫌よ。なぜ、そんな意地悪なことを言うのよ! 嘘でしょう!」
「おまえは幼かったから故郷でのことを覚えていないだけだ。オレの母上は優しいから、おまえのことも優しく扱い、なおかつ、オレのことを兄と呼ばせることを許していたが、普通はオレとおまえは対等に話せない関係なんだよ」
これまで、そういう真実を説明しなかったのはシードの優しさなのだ。
「ナグルでは奴隷女が産んだ子は奴隷のままなんだ。オスベルに来たおかげで、おまえは自分の運命を変えられるようになった。ナグルでの戦争がなければ、今頃は宮廷の宴席を彩る娼婦になっていた」
「い、いやよ!」
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