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受け入れ難い現実に頬を引き攣らせながら反発していく。
「そんな事は信じないわよ! シードは嘘を言っているのよ! そんなことを信じないから!」
「……よく聞け。オレも父上から愛されていなかったんだよ
父は第二夫人の息子だけを溺愛していた。第二夫人が、シードの母親は奴隷の男と浮気をしていると言い続けていたという。だから、シード母子は阻害されてきた。
「父は、第二夫人の言いなりになっていた。オレは、腹違いの兄に暗殺されないように馬鹿のフリをして生き延びてきたんだよ」
王都がオスベル軍に襲撃された時は、シードは母の生家の田舎に潜んでいた。戦況が悪化すると野蛮なオスベル兵が戦利品を求めて民家に押し入ってきた。泣き叫び恐怖に怯え逃げる人達。思い出したくもない。惨憺たる光景だ。シード達は何とか生き延びた。
シードの母、シード、アロワ、フローラ。四人は同じ船でオスベルへと運ばれていったのである。
「フルーラと再会した時は嬉しかった。おまえをフルーラの元に戻す事がオレの義務だと思っている」
厳しい言葉を言っていても、ちゃんと妹を労わっていることは明らかである。
「シードは故郷の屋敷がオスベル貴族の持ち物になっていることに腹が立たないの!」
「どうでもいいさ。父の財産など欲しいとも思わない。自分の力で生きていることを誇りに思っている」
「オスベル人に飼い慣らされてしまったのね! あたしは違うわ! こんな女、切り刻まれて死んでしまえばいいのよ!」
痛烈な捨て台詞を吐いたかと思うとワーッと泣きながら去っていったのだ。アロワがオスベル人に敵意を抱くのも当然である。彼女に伝えたかった。
(あのね、昔は、バース人も酷い目に遭ってきたのよ……。この世界は力が強いものが支配するようになっているのよ。とても残酷な世界なの)
イリア自身はバース民族の末裔である。それなのに、オスベル人として憎まれているのだから、何とも奇異な運命だと苦笑せずにはいられない。
「シード、あんな言い方をしては駄目よ。あの子の気持ちを受け止めてあげてよ」
「もう子供じゃないさ。あいつには、あいつの人生がある。奴隷から解放された後は一人で生きるべきだ」
シードは、ぶっきら棒で無骨だけど優しくて責任感が強い。困っている相手には必ず救いの手を差し伸べる。しかし、彼は、妹と故郷に帰るつもりはないようである。
あまりにも色々な事が一度に起きたせいで疲れが押し寄せて眩暈かしてきた。
「シード、怖いわ。とても嫌な予感がするの」
「おまえ、震えているのか? 怪我せいで微熱が出ているせいかもしれないな。眠って早く元気になれ。おまえが元気じゃないかとオレも気持ちが沈む」
扉を閉める前に、低い声でこんなふうに囁いた。
「いいか、アレクにだけは本当の事を話せ」
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