7 暴動の爪痕

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               ☆    イリアの話を聞き終えたアレクは困り果てたように唸り声を漏らした。ややこしい事態に陥っている。 「これは参りましたね」  書斎の椅子に腰掛けたまま、アレクは虚ろな目つきになっている。 「実は、事件の黒幕はギリ族ではなく本当はカーン族ではないかと推測する者もおります。スツラ達も馬鹿ではありません。やがて、暴動の真相に辿り付くでしょう。街では、オスベル派と反オスベル派のバース人が水面下で睨み合っています」  事件から三日が経過しようとしている。危うく死ぬところだったスツラは暴動の真の首謀者を探そうとやっきになっている。しかし、スツラを死ぬ寸前まで追い詰めた若者は未だに行方が知れない。どさくさに紛れて金持ちの蔵を襲ったバースの一般市民もいる。日頃、オスベル人に対して鬱憤を抱えている者が、首謀者や、その目的を知らないまま暴動に加担したのだ。そのせいで、今回の騒ぎは大きくなっている。 「それで、ルシルは、ユリアウス邸に戻ったのかしら?」 「はい、戻っておりますよ。あの娘は見た目よりは芯が強いようですね。つとめて平静を装っていますよ。幸い、今のところは、誰も、まだルシルの正体に気付いていないようですね」  アレクが新たな情報をもたらした。 「さっそく、スツラの交友関係を探りましたよ。副葬品の行方の事ですが、ここ最近、スツラに接触した男がいます」  あらゆるツテを使って剣の行方を突き止めたのである。 「どうやら、カーン族の剣はリーバックという男が持っているようですよ。縁起物として副葬品を欲しがる人が一定数いますからね。彼は、ギアドアのいう小都市の館に住んでいます」 「ギアドアって?」 「ミカエラトとオスベルの中間地点にある小さな街です。オスベルからここまで旅する途中、ヤギの脳ミソを食べないかと言い出した宿屋の主人がいたでしょう?」  ここに越してくる際に一度だけ立ち寄ったことがある。旅人や馬を休憩させる為に作られた素朴な集落でオスベルの軍の兵舎も極めて小さいものである。 「リーバックの母親はバースの豪族の娘で父親はオスベルの退役軍人なのです。彼は、何としても当選したくて縁起のいい剣を買い取ったのですよ」  死者の魂を自分の活力に変えるという言い伝えを信じているのだ。 「墓泥棒をして、それを転売して儲けようなんて、いかにもスツラがやりそうな事ですね。お嬢様、とにかく、しばらく様子を見るしかありません」 「そうよね……」  イリアは憂いを込めた面持ちで頷いたのだった。
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