8 首謀者

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 それに答えようとしたルシルより先に背後からトナが語り出した。 「ど、どうしてだと……?」  横臥の姿勢のまま口惜しげに肩を震わせている。痛みに苦しむトナは半身を起こそうとしている。アレクが無理は禁物とばかりに押し留めると、彼は横たわったまま呟いた。  「今回の暴動の仲間は多ければ多いほど良かったのだよ。鉱山にはオスベルへの反対勢力の者が大勢いる。彼等も同じバース人だ。厳しい労働から解放してやりたかった。彼等は召使いとなった妻や娘とも再会したいと言っていた。ごほっ……。虐げられた者の惨めな気持など分かるまい……!」  狭くて暗い鉱山では落盤事故が頻発しているし、監督者に殴られて死ぬ者もいる。苛烈で残酷な場所なのだ。  アレクはトナに向かって微笑んでからイリアを指さしていく。 「イリア様の父方の祖父は元奴隷です。あなたと同じカーン族に属しておらました。君達は近しい間柄なのですよ。そんなふうに睨み付けてはいけません」 「なに! そなたはカーン族の末裔なのか?」  すぐさま態度を軟化させている。彼等は血族というものを何よりも重視しているらしい。 (そう言えば、おじぃさまはカーン族だわ。戦前は、おおっぴらに奴隷狩りが行なわれていたのよね。あたしの母様はカスパール族で、比較的、裕福な暮らしをていたと聞いているわ)  丁寧に手当てを終えた後、仕切りなおすかのようにアレクが言った。 「さぁ、食事をとってください。傷を治すには滋養のあるものを食べるのが一番ですよ」  トナは、差し出された粥をゆっくりと咀嚼すると美味いと呟いた。痛みを抑える煮汁を飲んだおかげかもしれない。饒舌になっている。 「それにしても奇遇だな。羊飼いをしていた少年が奴隷商人に連れ去られて、行方不明になったと想ったら、何十年後に村に帰還したのだ。その男は、オスベルでも有数の大商人になっていて、村に寄付したという事は噂で聞いていたのだが、まさか、そなたの祖父のことだったとはな」  麦粥を食べ終えると、トナが真面目な顔で呟いた。 「どうか、イリア殿も協力してくれないだろうか。とうしても我々は剣が必要なのだ。我等の魂を取り戻したい。頼む、知恵を貸してくれ」  バースでは埋葬品を奪われる事は死者の魂を奪わることに等しいとされている。  墓泥棒をしたスツラを法で裁くのは難しい。スツラによって陪審員を買収されたら勝ち目がない。オスベルの法廷は金持ちの都合によって簡単にねじ曲げられてしまう。だから、仕方なく、ああいう形で奪還しようと試みたというのである。 「お金を出して買い戻すしかないんじゃないかしら?」 「お嬢様、お金は用立てられますが、今の剣の持ち主であるリーバックはお金が欲しいのではありません。当選する為の運や勢いが欲しいのです」
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