モンスターOL

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彼から返信が途絶えて2週間経つ。 彼とのデートの日に限って、定時間際に山内さんという40歳の女性上司から仕事を振られる。 山内さんのプライベートのことは一切知らなかったし知る由もなかった。 いつも無表情で感情に起伏のない山内さんには、仕事以外の話はなんか切り込みにくい。 さすがに5回目となると温厚な彼の愛想も尽きてしまったようだ。 たまに連絡しても音沙汰ない。 LINEには「既読」の表示があるので、ブロックはされていないようだ。 これが自然消滅ってやつなのかもしれない。 山内さんは独身だ。 化粧っ気がなく、お肌や髪のお手入れもそこまでしていないようだ。 これまで山内さんに彼氏がいたことはあったのだろうか。 山内さんを好きになる男性って…まぁ想像つかない。 それに山内さんなんかに結婚を急ぐアラサー女子の気持ちがわかるもんか。 山内さんの下で働いて今年で1年目。 「こいつのせいで、某有名企業に勤めるエリートの彼氏と別れることになるなんて…」 彼とは友達の結婚式の2次会で意気投合。その時、彼は飲み友達がいたので、しばらく飲み友達として1ヶ月に1回ペースで飲む仲になった。 彼が彼女と別れてからも、交際に発展するまでに3年かかった。 私は、無意識に30歳を過ぎると、山内さんのような男性から女性として見てもらえないような気がして怖かった。 今年で私は30歳になる。もう私には時間がない。 今日は、山内さんにだんだん怒りがこみ上げてくる日だった。 こんな感情がいつもより強くこみ上げてくる日はいつも決まって、生理前だった。最近、生理前になると自分の感情をコントロールすることが難しい。 急に叫びたい日もあれば、大声で泣きたくなる日もある。 実際にお風呂の中で、わめき散らしている。 今日は何もないけれど、早く家で一人になりたい。横になりたい。 定時まで1時間を切った頃、大量の書類を持っている山内さんがスタスタとコンフォートシューズの音を立たせて私の席に近寄ってくる気配を感じた。 「まじかよ…」心の声と同時に舌打ちが漏れた。 山内さんと目があったちょうどその時、ついに私は言ってはいけない、でも毎日のように心の中で叫んでいたあの言葉を発してしまった。 「ふざけんな!ばばぁ!今日は、暇だったの知ったいたでしょうが。そんなに仕事溜まってるんなら、もっと早い時間に持ってこいよ。絶対定時で帰ってやるからな!」 あぁやってしまった…。こんなはずじゃなかった。 とうとう生理前の自分を制御しきれなかった。 あんなに目を丸くしながらあっけにとられたような、山内さんの何とも言えない表情を見たのは初めてだった。 周りのオフィスもさーっと静まった。 山内さんは私をまるで宇宙人を見るような得体の知れないモンスターを見るような表情に変わり、口を開いた。 「あのね。この書類、いまから金庫にしまおうと思っていたの。今日はあなたに振る仕事はないわ」とだけ言葉を発してスタスタと書庫へ向かった。 今日から私は、モンスター社員になった。 周りの目を見て自覚せざるをえなかった。 明日はとりあえず休もう。 これからどう生きるべきか、会社はやめることになるのだろうか。 音信不通の彼のことなど、すっかり忘れてしまっていた。
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