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呼び鈴を押すかどうかの間で、玄関のドアが開いた。
どの辺りから勘付かれていたのか、と、瑞垣は考えようとしたが、彼の真摯な顔を見ると其れも霧散した。
ぽん、と軽く彼の肩を叩き、押しのけるように部屋に入る。きっちりと整頓された部屋は台所も食卓も長椅子も、そのまま、見慣れた彼の部屋で、彼の匂いがした。
しかし珍しく、食卓には資料や辞書が乱雑に広げられている。
それから随分と、灰皿に吸い殻が溜まっていた。元はといえば彼は其程、煙草はやらぬ質で、自分や周囲との付き合いで嗜む程度なのだ。
なのだが。
「待ったか?」
と瑞垣が訊ねると、
「多少は」
と彼は苦笑した。
かれの 笑顔に感じた痛みと、懐かしさは。
自らが犯した罪と、彼と、過去を……想う。
瑞垣は溜息を呑み込んで、ひとこと、
「……ただいま」
とだけ。
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