上海記者倶楽部①

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 後輩記者が更に語るところが確かであれば、それはまさしく怪談であった。  其の、往来に打ち捨てられた屍は当然、通行人等に見咎められて騒ぎになった。だが、官吏や警備隊が駆けつける前に煙のように消え失せたという。  中国国民党と諸外国の事情と均衡を背景に、余計に複雑化していたせいもあるが、場所が場所なだけに、誰にも気付かれず見失ったとあっては、官吏も諸国の警備隊も面子を潰された格好になる。  ただ為に、此の死体遺棄に狂言の可能性が出た。そうなると、公は本当にどうしようもなく動きが鈍くなる。結局、碌な捜査はされず、沙汰止みになった。  初めての時は。  その事件から三月程が経ち、人の口にも上らなくなった頃、二度目の屍が出た。然も、最初に遺体が見つかったのと同じ場所に。これに、まったく裏を疑わない人間が居たら瑞垣と野々村に罵倒されよう。そして周囲が騒然となっている間に、またも死体は消えたのだ。  更には奇妙なことがもうひとつ。  最初の屍体は死後幾日が経ったものか、肉も皮も溶けたか喰われたかで、ほとんど髑髏も露わになった死体だったそうだ。つまり、ほぼ白骨死体ということだ。しかし二度目はまだ辛うじて髪も、身につけていたであろう衣の一部も残っていたという。黒髪だったというから、東洋人だったのかもしれぬ。  そして更に二月ばかり後に、三度死体が出た。また数分たがわぬ場所に、だ。今度はおそらく女か、年若いものであることが分かる状態だったという。其処に至って漸く、尋常ならざる事態だと周囲も気づく。  果たして、遂に又一月後、四度目の死体が出た。  ほぼ、女であろう死体が。  また当然のようにその屍体も消えて、  其の場所は、  人喰い辻と呼ばれるようになった。
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