0人が本棚に入れています
本棚に追加
……もしかすると。
たらふく洗濯物を貪ってゴウンゴウンと唸りを上げる洗濯機の音と、記憶を刺激する洗剤のラベンダーの香りに包まれているうちに、ふと、今まで考えなかったことに思い至る。
ラベンダーのこの香りに、鎮静の効果があるということは、疎い俺でも聞いたことがある。
彼女がいつも、それを身に纏っていたのは。
俺のため、だったのだろうか。
すぐイライラしてしまう俺に、少しでも、落ち着いてほしいからだったのだろうか。
考えすぎかもしれない。
ただ、単純に、その香りが好みだっただけなのかもしれない。
直接聞いたわけではないから。
それに、聞いてみても、「別に、好きだから付けているだけだよ」なんて言うんじゃないだろうか。
真実がどちらだとしても、とぼけるんじゃないだろうか。
そんなことを、ふと、考える。
今さら考えても仕方ないという思考も、頭のどこかにある。
けれども、そんなことをふと思い、考えてみることが、今の自分に必要なんじゃないかという気もする。
外では、どこか遠くで、セミが鳴き始めた。
今年初めて耳にする。
きっと今日は今年一番の暑さになるだろう、そんな予感のする晴れた午前の空気。
もっと理解し合うことができたのかもしれない。
いや、きっと、できたのだろう。
こんなふうに、彼女の纏う香りに気がつくようなことが、できていたなら。
共に暮らす相手のことをもう少し考え、思いやることが、できていたなら。
俺にはきっと、そういう部分が足りなかったんだろう。
だから、うまく行かなかった。
彼女と共に歩むことが、できなかった。
そしてあの日、決定的な亀裂が生じてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!