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体中をなめていると、気持ちが落ち着いてきた。
あーあ。猫でいるのも楽じゃない。
家で寝てる方いいかも。
そろそろ、帰ろ。
と、その時、公園の広場からヒロの声がした。
遊びに来たのかもしれない。
そっと木陰からのぞくと、公園の端にヒロがいた。
ヒロ一人じゃ心配だからというお母さんが、いっつもぼくを一緒に公園に行かすんだ。
でも、今日は一人。寝ているぼくが起きなかったせいかも。
ぼくが一緒じゃなくても大丈夫じゃん。
そう思っていると、なんだか雲行きが怪しい。
ヒロの前には三人の男の子が立っていた。
友だち?
見ているとそんな雰囲気じゃない。遊んでいるんじゃなくて、なんだかにらみ合っているみたいだ。
それに、あの三人組はさっき猫のぼくをいじめた奴らじゃん!
「なんだよ、今日は大好きなお兄ちゃんと一緒じゃないのかよ」
「大好きじゃないもん! お兄ちゃんは大魔王で、ぼくがヒーローなんだぞ。毎日、たたかってるんだ」
ヒロの言うことにムカっとしたけれど、次の男の子の言葉がヒロの言葉を上書きした。
「ヒーローごっこしてるんだ? それに付き合うお兄ちゃんも幼稚だな」
バカにしたように言われ、カチンときた。
幼稚だと言うところが幼稚だって人間に戻って言い返したかった。
でも、ニャーとしか言えなくて、悔しい。
言い返さないのかと、ヒロをみると、下を向いていた。
「お兄ちゃんいないのなら、俺たちとヒーローごっこしようぜ」
ニヤッと笑う顔は、あの追いかけてきた顔だった。
ヒロはヘッドロックをかけられて、顔をしかめた。
我慢の限界だった。
「にゃにゃー(やめろー)!」
飛びかかっていって、腕をひっかいた。
「いって!」
地面に着地して、「シャー!」と威嚇した。
男の子は腕を押さえて、恐怖に顔を引きつらせている。
いい気味。
威嚇しながら一歩前に進むと、男の子たちはくるっと後ろを向くと逃げて行った。
さまあみろ。
フンと鼻をならした。
「ジュジュ」
ヒロが呼んだ。
ほっぺが真っ赤になっている。ホッとした顔にぼくはつられてホッとした。
「にゃん」
返事をして、ヒロの足をしっぽで叩くと、しゃがんで背中や頭を撫でられた。お兄ちゃんなのに撫でられるなんて変な感じだ。でも、悪くない。
「かえろー」
ひとしきり撫で終わったヒロが言った。
「にゃー(帰ろう)」
「へんじしてくれるの」
「にゃー(まあな)」
今日は猫の姿で、ヒロと一緒に家に帰った。
家に帰ると、寝ていた場所に、自分はいない。
どこ?
「にゃーん(どこ?)」
お母さんに、聞くと首をかしげたあと、思いついたようにキャットフードをお皿に入れてくれた。
違う違う。ごはんじゃなくて、ぼくだよ。
にゃん!と抗議すると、「ハルトなら部屋で寝てるわよ」と教えてくれた。
二階へとかけていくと、後ろからお母さんが「ジュジュはハルトが好きね」と言う声が聞こえた。
隙間から部屋に入ると、布団に入ってぼくが寝ていた。
ぴょんとベッドに飛び乗り、その隣に丸まった。そして、スース―という寝息を聞いているうちにいつの間にか寝てしまっていた。
起きたら、元の自分に戻っていた。
隣には丸くなって寝ているジュジュがいた。
夢のような、夢じゃないような……。
伸びをすると、体がぎしぎしいう。ずっと寝ていたみたいに体が固まっている。やっぱり、自分の体が一番かも。
下に降りると、ヒロがやってきた。
「ジュジュは?」
「二階で寝てる」
「ふーん」
そういうと、大好きな特撮アニメを見だした。
ジュジュのことなんて聞いたことのないヒロが気にするなんて。ちょっと嬉しい。
「ヒーローごっこしないか?」
嬉しくて、つい言った。
「え?」
驚いた顔がぼくを見た。
そりゃそうだ。一度だって、ぼくから誘ったことなんてなかったんだから。
「いいの?」
「今日は、ぼくが大魔王役でいいよ」
そう言うと、ヒロの顔がパッと明るくなった。
おしまい。
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