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* エメラルドな人生にさようなら *
***
普通の人生を歩んでいたら、勤め先の倒産なんて滅多にないだろう。
そして、婚約破棄も早々出会さないだろう。
だけど、どちらも日本では儘ある話だ。
都会のど真ん中で石を投げれば、経験者に当たる確率は極めて高いと思う。
しかし、倒産と婚約破棄が同時進行するのはレアケースではないだろうか。
「……職もなくして、結婚もダメとか」
好きな仕事に、好きな人。
まさに薔薇色の人生から転落した私に残されたのは、元婚約者に最後にプレゼントされたエメラルドのネックレスだけだ。
「皮肉なものよね、まるで今の人生を暗示しているみたいで」
エメラルドグリーンに否は一切ない。
だけど、エメラルドグリーンのような可愛い緑色が、薔薇色の対極に位置する補色の色である事実が、今はとても辛いわけで……。
宝石に罪はない。
それは、当然。当たり前。
とは言え、ネックレスを後生大事にする義理はないだろう。
だが、全てがマイナスに傾いている状況で衝動的な行動は命取りになりかねない。
だけど、愛でる気持ちも残っていない。
かと言って、職なし、未来なしで金目の物を投げ捨てる度胸もない。
そんなことを思いつつ、胸元のネックスレスをいつものように見つめていて気付く。
「そっか! 私、上を向けばいいんだ!」
婚約破棄に、倒産……。
下を向いて、イジけたい理由は揃っている。
だけど、無理やりにでも上を向くべきだろう。
元婚約者からのプレゼントが、物理的に上を向かせる原動力になるなんて皮肉なことだ。
だけど、人生はまだまだこれから。
そう、だからこそ……。
今日から私は上を向いて歩き続けていく。
【Fin.】
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