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「面倒でしょ」
僕は言った。君は黙って首を振って、何か言葉を探すような間を空けてからこたえた。
「傷ついたらごめんね。あえて誤解を恐れずにいうけれど」
「うん」
「まるで、魔法みたいだなって、思っちゃったよ」
「魔法?」
「そう、魔法。思い出をずっと保存しておける、素敵な魔法。実は、私がカメラに興味を持ったのは、そんな魔法があったらいいなって思ったからなんだ」
人ってさ、と君は続けた。
「思い出の中に生きているときにだけ、本当の自分を見つめることが出来ると思うの」
「そういう風に考えたことはなかったな……」
「あなたの苦しみをしらないくせに、無責任なことを言っていると思う。だけど、少しだけ羨ましいな。ほら、私って忘れっぽいじゃない? だから、思い出は写真に残さないと不安なんだ」
確かに、君には忘れっぽいところがあった。同じ会話を繰り返したり、待ち合わせの時間を間違えたり、そんなことは日常茶飯事だった。普段は溌剌としているのに、どこかぼうっとした瞬間がある感じが、むしろ人間らしくて好ましいなと僕は感じていたんだけど。
「だけどね、あなたが苦しまなくて済む方法を思いついたよ」
君は言った。
「二つ目のスクリーンに映る、どのフィルムを再生したとしてもね。そこに私しか映らないくらい、二人の思い出を積み重ねればいいんじゃないかな? それに、私は居なくならないよ。あなたの視界全部を、私で埋め尽くしてくれたら嬉しいな」
「そんなこと、出来るのかな」
「出来るよ、私とあなたなら」
君は何の気負いもなさそうに、無邪気に笑った。
「だから、歩いていこうよ。この先ずっと、二人で歩いていこう」
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