名もなき魔法

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 だけど、そんな穏やかな日々に、唐突な終わりが訪れた。  結婚して一年後、君の病気が発覚した。記憶を失っていく病。冗談みたいだろう? ドラマや映画の話じゃない。現実に、そんなことが起こりうるんだ。  君が僕の前で初めて泣いた、あの日。いつまで経っても明ける気配がない夜のことを、何度も思い出す。 「本当にあなたのことを思うのなら、もう私のことは忘れて生きていいよとか、言うべきなのかもしれないよね。でも、無理みたい。今から私、世界で一番、わがままな女になるね」  そう言った君が、急に僕に抱きついたんだ。 「忘れたくないよ……忘れないでほしいよ……」  あんな風に泣きじゃくった君を見たのは、後にも先にもあれが最後だった。
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