わたし、きれい?

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「私はこう見えて、海外で修行をしてきました」  医者になり、すぐに海外へと向かった三好は、そこでたくさんの知識と技術を学んだらしい。 「日本はこの分野においては、やや遅れ気味ですからね」 「はぁ……」  元々は、少しでもきれいになりたいという願望を叶えてあげたい──そんな気持ちから踏み出したこの世界。  しかしそれは表向き、その裏には悲しい思い出があった。 「妹がいたんです。ずっと顔にコンプレックスがあって、学生のころはいじめられたりなんかもして」  三好は少し寂しそうな顔をした。  それは、清美にとっては懐かしく、そして胸が苦しくなるような話だった。とうの昔に忘れてしまったことではあるが、自身もまた──。 「わかります。本当は……いえ、本当に。つらいものですから」  三好は黙ってうなずいた。しかし「でもね」と言って、雲が晴れたようにスッキリとした表情になった。 「結婚したんです。私が手術する前に」 「え?」 「まぁ、厳密に言えば、治療はしたというか。したことになっちゃったんですけどね」  三好が行った治療、それは、言葉をかけることだった。  暗くどんよりとした表情の妹に、いつか必ずきれいにすることを約束し、楽しみにしておくようにと、日々の修行のことなどを伝え続けた。  妹はその日を心待ちにし、ファッションに関心を示したり、美容にも興味を持つようになった。 「こんな服、整形した後の私に似合うかな? なんて聞いてきたりして」  三好は携帯電話を取り出すと、妹の写真を照れくさそうに見せてきた。 「素敵な笑顔ですね」 「でしょう?」 「はい、とっても」 「結局は、希望なんですよ」 「希望……」 「ええ、希望です。私はそれで気がつきました。元々人は、誰でも魅力的で美しい。私の仕事は、それを取り戻すことなんです。私は妹の結婚を聞いたとき、思いました。今日から私は、美しさではなく、そういう風に希望を与えられる人になろうって」  清美は黙ってうなずいた。  これまで自身が行ってきたことを振り返ると、胸が張り裂けそうだった。  そんな心中を察したのか定かではないが、三好は力強く言った。 「だから、清美さん。必ずあなたの美しさを取り戻します。以前のように、明るく過ごせるように、全力を尽くします。必ずそのお顔は、元に戻して見せます!」 「せ、先生……わたし」 「あなたは、きれいです」
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