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そもそもベンジャミューが海賊になったのは自ら進んでのことではなかった。そのきっかけは無理矢理強要されてのものである……。
幼い頃から船乗りに憧れ、長い下積みの末に奴隷船の二等航海士として働くようになっていた彼であるが、エウロパ世界の南、アスラーマ帝国の支配するオスクロイ大陸の近海において、同じグウィルズ人の海賊パウエル・デビッドによって、彼の船は襲われてしまう。
「──ほおう。おまえ、小太りな見てくれのわりに航海士なのか? よし、俺の仲間になれ。まあ、嫌なら別に無理強いはしねえが、ならないってんならサメの餌だ」
「ええ!? そ、そんな……」
他の仲間同様に捕らえられ、海賊達の尋問を受けるベンジャミューに対し、彼の身分を知ったパウエルは悪どい顔を歪めながら、冗談めかしてそう脅しをかける。
そう……さらに運の悪いことにも、このワガママな海賊の船長は彼の船乗りとしての能力に目をつけ、有無を言わさず自らの一味に引き入れてしまったのである。
ところが、最初は嫌々海賊となったベンジャミューではあるが、これが始めてみると意外やまっとうな水夫よりもかなり待遇が良い。
それは、パウエルの一味に加わり、初めて貿易船を拿捕して、その積荷をまんまとせしめた時のこと……。
「──え? こんなにもらえるんですか!?」
「ああ。いただいたお宝はみんなで山分けと決まってるからな。それにおまえは航海士なんで、その分、上乗せだ」
その海賊働きに対する報酬の支払いの際、思いの外に取り分が多かったため、ベンジャミューは目をまん丸くして驚いた。
利益のほとんどを船長や船主が持っていってしまい、安い賃金でこき使われる通常の水夫に対し、悪党であるはずの海賊の方がむしろ平等の精神に満ち溢れていたりする……。
基本、獲物の船を襲って得た財は皆で山分けであるし、船長や航海士など、役付きのものはその分、合理的に賃金が上乗せされるので、ベンジャミューはこれまでと違い、自分の働いた分だけちゃんと給金をもらえるようになったのである。
それに、一味にとって重要な事柄は皆の多数決で決められたりと、無法者のくせして妙に民主的な面もあったりもする。
また、元来、派手なことやギャンブルを好むベンジャミューにとって、一攫千金を狙う海賊という仕事はなんとも性に合っていた。
当初の印象とは180度反転し、ベンジャミューはこの稼業をいたく気に入ってしまったのである。
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