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一方、金払いがよく、楽天的な性格のベンジャミューは、仲間の海賊達からも人気があった。
「──わしは航海士として余分にもらっているからな。今回の仕事ではたんまり給金も入ったことだし、今夜は皆に一杯奢ろう! ガハハハハ…!」
「おおおおーっ! さすがはベンジャミューの旦那だ!」
「我らがベンジャミュー航海士にカンパーイ!」
そんな感じに、一仕事終えて陸に上がった際は仲間達に振る舞ってやることもしばしばであったので、新入りの身でありながらも、彼は次第にパウエル一味の中で人望を集めていった。
しかし、そんなベンジャミューの人生に、再びの転機の時が訪れる……それは、ベンジャミューが一味に加わって一月半ほどが経った頃のこと。
「──よーし。今度の獲物はあの島の総督さまよ。ここは一つ人質になっていただいて、たんまり身代金をいただくとしようや」
エルドラニアとは同君主国のポルドガレ王国領となっている、オスクロイ大陸の西の海に浮かぶサント・プリンチパリ島付近を通りかかった折、不意に船長パウエルがそんな計画を思い付いた。
サント・プリンチパリ島では奴隷を使ったカカオとコーヒーの大規模栽培が行われており、確かに海賊が魅力を感じるだけの金はある。金はあるのだが……。
「ですが船長、あそこには金もありやすが堅牢な要塞もありやすぜ? それに駐留艦隊の軍艦もいやす。そいつはなかなか難しい仕事のように思えるんですがね」
手下の海賊の一人がいたくまっとうに、その問題点を指摘する。
「フン! なにも正面きって攻め込みゃあしねえよ。商船に偽装して入港するのさ。で、油断してる隙を突いて総督さまを拘束するってえ寸法だ」
だが、パウエルは悪どい笑みをその顔に浮かべると、何も心配はいらないというようにそう答えるのだった。
海賊・船長パウエルは、一度言い出したら聞かない猪突猛進的な男である……ベンジャミューを含むパウエル一味の海賊船は、彼の言うように商船に化けて、サント・プリンチパリ島の港へと侵入した。
まあ、最初の内は計画通りに事が進み、すっかり騙された総督府はパウエルらに上陸の許可を与えると、歓迎の夕食会にまで招いてくれた。
こいつはまさに、総督の身柄を拘束する絶好の機会だ。「しめしめ…」と舌舐めずりをしながら、手練れの少数精鋭を連れて総督府へ向かうパウエルであったが……。
ベンジャミューにとって、船からパウエルを送り出したこの時が彼の姿を見た最後となってしまった。
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