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「おはよう! 螢川くん。昨日はありがとう」
「あ、おっ、おはよう、いや、そんな大したこと……」
翌朝。合葉さんはいつも通り元気に話しかけてきた。よかった。誰かに相談するなりしてスッキリしたんだ。
安心していると、ふふっと合葉さんは口に手を当てて笑う。
「螢川くんって、普段そんな感じなんだね」
「ま、まぁ、好きなものについては早口になっちゃうっていうか」
「憑き物オタク、だっけ?」
あぁ、昨日の自分を川底に沈めたい。
「そうだね」
「螢川くんには、霊能力があるの?」
いや、撤回する。地球のマントルにまで埋まってしまえ。
「えっと、霊が見えるとか、そういうのはないよ。ただのオタクだから」
そもそも、悪霊とか妖怪なんてのは存在しないと言ってもいい。ああいうのは全部、含蓄とか説教じみた嘘話だ。
「えっ、凄い! じゃあ、私の頭がちょっと禿げているのを見ただけで、ぜんぶ分かっちゃったんだ! 凄いよ、探偵だよ! 憑き物探偵!」
「いや、言い過ぎだよ……」
「私、螢川くんの助手になろうかな」
「えっ。助手?」
合葉さんは、うん、と上目遣い気味に頷く。
「昨日の私みたいに誰か困っている人がいたら、あぁやって話しかけているんでしょ?」
誤解が過ぎる。
「それに、ほら。つけ入る隙があったら、憑かれちゃうんでしょ? だから、ほら。その、螢川くんがこの先ずっと一人でいたら、寂しくなって、隙が出来るときがくるかも知れないでしょ? スキが……あっ、」
合葉さんは唐突に顔を背けた。
なに独りでに赤くなっているのだろう。
「だから、その……私には、それくらいしか出来ないかな、って」
数秒ほど考えて、ようやく合点がいく。
そうか。合葉さんは、僕と友達になりたいのか。
自然と、頬が上がっていく。
……素直にそう言えばいいのに。
いや、これは、彼女なりに精一杯伝えてくれているのだ。
僕はくいっと眼鏡を正してから、真っ直ぐに目を見て言った。
「合葉さんにしか出来ないよ。僕の相棒は」
「相棒! かっこいい!」
ガッツポーズをする合葉さんに、不覚にも吹いてしまう。
――まぁ、残念ながら、僕は友達以上の関係を望むけれど。
でも、安心してよ。
合葉さんは素直に言えない性格だけど、僕もけっこう奥手なんだ。
君の悩みを誰かに打ち明けさせたいがために、長ったらしい嘘の怪談を語るくらいには。
だからこの想いを伝えるのは、まだまだ先になると思う。
――さて、と。僕は今から熟考する。
その時はどんな話をしようか?
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