昆虫学者になりたかった

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昆虫学者になりたかった

美津子がそう言い張っても実際見た目が巨大な虫で、そしてそれは着ぐるみや作り物でなく、ほんとうに虫なんだから人間だなんて誰が信じよう。 「あーもういいよ。なんだかまだ頭がボーっとするけど、もう帰ろう」 俺は、俺が人間だったということを認めさせるよう努力することに、もう興味を失った。元人間だと認めさせて、それでいったい何が変わるというんだ。虫になってしまった事実は変えられないのだ。 「ちょっと待ってください。もう少し調べたいんです」 若い獣医はそう言った。 「いや、そんなこと言ってもあんた獣医だろ?どっちかって言うとこりゃ昆虫学者の領域だ」 「そうです。ぼくは小学生のころ、昆虫学者になりたかったんです。それがどういうわけだか道を踏み外しちゃって…」 踏み外したという意味がわからないが、まあ虫に詳しそうだってことはわかる。
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