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「ひっ!?」
彼の顔がこわばった表情になる。
私は今、どんな顔をしているかはわからない。
そんなの考えていられないぐらい頭の中はなぜか、真っ白だった。
「最近、なんか冷たいなって思ってたら浮気してたんだ。私がさっきの写真を見せたときに顔が引きつっていたっていうことはそういうことでしょ」
「あの、いや、これはその……」
彼が目を泳がせる。
私はその瞬間を見逃さなかった。
「何?」
私は殺気を全面に出してみる。
すると、彼はガクガクと震えて、尻もちをつく。
そのままジリジリと後退った。
私は逃すまいと、どんどん前へ出る。
一度、芽生えた、なんとしてでもガツンと言ってやるというこの気持ちはそう簡単には消えやしない。
私が納得行くまで、こってりと絞ってやる!
「ごめん! だけど、君を一番に思ってる。本当だ、だから……!」
彼は両手を顔の合わせて、私に対してお願いをしている。
……やっと、白状した。
一番に思っている……か。
一度、裏切られた人間に対してまた、信用しろと?
私はそんなに優しい人間じゃない。
それに、今はあんたのせいで結構、頭に血が昇ってる。
本当なら今すぐ、頭を冷やしたいところだけど、ガツンと言ってやるならそんな必要も無いよね。
「私がそんな優しい人間だと思った?」
「ひっ!?」
私はジリジリと後退りする彼を鋭い目で睨む。
すると、彼はより一層、顔を引き攣らせた。
「私はずっと我慢してたんだよ。話聞かないのもそうだし、面倒なことを全部渡しに押し付けるのもそうだし。もう、うんざりなんだよね」
私はもう一歩、前へ出る。
そして、冷めたコーヒーを手に取った。
「あんたにこの気持ちは理解できないだろうね。でも、もう私の心は傷つきに傷つかれまくった。もう……本当、最低!」
私はコーヒーを勢いよくシンクに捨てた。
バシャと水音がする。
本当は彼にコーヒーを掛けたかった。
でも、掛けたら一応、暴力罪に該当する。
やけどなんてしたら傷害罪だ。
大学のときに法律のことを少し勉強していたから知識はある。
「もう、私に二度と顔を見せないで。わかった?」
私は彼をこれまでに無い殺気で睨みつける。
すると、彼は縮こまって、ブンブンと首がもげそうなぐらいにうなづいた。
私は鞄を持つと、早歩きで家を出ていった。
わざと、バンッと大きな音を立てて、ドアを閉める。
「ふぅ……」
疲れた、けどスッキリした。
これで、もうあいつとの会わなくて良さそう。
あいつ結構、私に怯えてたしね。
「あーあ! スッキリした!」
私は大きく伸びをする。
私は社会人になってからずっと、色んなことを我慢し続けたのかもしれない。
たまには、芽生えた気持ちに素直になってみるのもいいかも。
あっ、今日は久しぶりに私の好きなサーモンにしよう。
それじゃあ、スーパーに行ってサーモンのお刺身を買わないとね。
あと、親からもらったあのお酒も開けて……。
ふふっ、今日の夜が楽しみだ。
私はスーパーに向かって歩き出す。
その足はスーパーにつく頃には早歩きになっていた。
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