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6月12日
6月11日 雨
初めて、好きと言われた。付き合って半年、別れる間際に、何を今更。
シャーペンを置いて、ラジオのボリュームを絞る。感傷的になるのは、聞こえてくる雨音とラブソングのせいだ。
久しぶりに開けた日記帳は、学生時代の日付で止まっていた。読んで懐かしむことはあっても、新たに書き始めることはしてこなかった。
仕事の話なんて書き始めるとネガティブになりそうで、学生時代の思い出が汚れる気がした。
恋愛の話も大差ない。自分は理想の王子様にはなれないし、相手も王道のヒロインではない。だから、疲れる。
気弱そうな横顔を、思い出した。控え目に微笑む様子が、庇護欲をかきたてたのだろうか。
「好きだよ」と伝えると、照れるように、幸せそうに、口元を緩める。思い描いていた好み、そのままだった。
女性パーソナリティが、次のリクエスト曲を紹介する。
あれは、家でテレビを見ていた時だったか。隣に座った彼女が声を上げて笑うのを、初めて見た。付き合って4ヶ月で目にした珍しい表情に、思い切って頬に手を伸ばした。
「...ごめん」
気配を察知した彼女は、笑い声をピタリと止めて、微笑んだ。申し訳なさそうに。誤魔化すみたいに。
「全然」
絡められた指に、肩に預けられた頭に、冷めていくものを感じた。許されていると思ったのに。
似たことは、思い返すとキリがなかった。
服装や、出てくる料理だけじゃない。話し方、仕草、表情、全てが計算されていたとすれば。
雨の音が強くなる。
鋭い観察力と器用さが備わっているだけであれば。そうだとしても、相手が俺である必要はあるのだろうか。
別れる前に、一度訊いてみたかった。
「好きか」と問えば、「好きだ」と答えるだろう。
「どこが」と問えば、「全部」とでも答えるのだろうか。
メッセージには、既読のサインをつけたままだ。
別れるのだ。「俺も」なんて返せない。
「じゃあ今度の土曜日、同じカフェで」。少し、冷たくはないだろうか。
こんなことなら、全部メッセージで済ませてしまえばよかった。
好き、なんて今更、
どうすればいい?
日記の日
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