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6月13日
リクエストは、はがき、メール、FAXで。
女性パーソナリティの甘やかな声を、遠くで聞く。
今日は、よく晴れている。窓の外では、ノースリーブを着た女性が、半袖を着た子どもが、休日を満喫している。
皆、幸せそうだ。
なのに、どうして私だけ?なんてセンチメンタルは、どこかに消えていた。
先週のメッセージに返信が来たのは、昨日の夜。既読は送信直後についたのだから、その分悩んでくれたのだと思いたい。
おたよりがきてますね。ラジオネーム―――
今回は店内のラジオを聞く余裕まである。
大丈夫。
店のドアが開いたのは、ラジオネーム哲学者さんのリクエストが始まって間もなくだった。
誰なのか、意地でも確認しなかった。目の前で椅子が引かれるのを見て、先に口を開く。
「久しぶり」
「久しぶり」
顔を上げなかったのは、話を早く切り上げるためだった。
「こんな店、知ってたんだね。ラテが美味しかった」
「この近くの取引先に来たときには必ず寄るんだけど、好きかなって」
「...うん」
曖昧な相槌は、カップの中に落ちて解けてしまいそうだ。
「なんで俺じゃなきゃいけなかったんだろう」
「え?」
「思わない?」
俺達がダメだった理由、ではなく。
どうして、なんで。言われてみると、大人になって考えることがなくなりましたね。
反射的に顔を上げると、真剣な色をした瞳に見つめられた。
「俺達じゃなきゃ、いけなかった理由」
知りたくない?
「俺は知りたいよ。ありのままの自分達が、どこまでいけるのか」
きみは?
でも、考えないわけじゃありませんから、そんなときには素直に訊いてみるのが1番なのかな。
「私も」
知りたいって、思うよ。
ラジオネーム哲学者さん、リクエストありがとうございました。
FMの日
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